加奈子「暑ぃなー」
京介「『真夏並みの気温になるでしょう』つってたなぁ昨日の天気予報。『熱中症に注意』とか」
加奈子「そんなん当たんなよなー」
京介「まったくだ」
加奈子「こー暑ぃと、プールとか行きてーよなー」
京介「だなぁ。まだやってねぇけどなぁ」
加奈子「プール開きしたら行こうぜー」
京介「おーぅ。ちょうど一日、日曜日だしなぁ。行くかぁ」
加奈子「……」
京介「……」
加奈子「へ?」
京介「ん?」
加奈子「え、マジで?」
京介「『マジで』って何だよ」
加奈子「マジでプール?」
京介「おぅ」
加奈子「市民プールじゃなくて、ウォータースライダーとか流れるプールとかあるプール?」
京介「ハナからそのつもりではあったが何気に要求入れるの上手いよなお前」
加奈子「行くの? 連れてってくれんの? 日曜日? マジで?」
京介「そういう話をしてたんじゃなかったか。それもお前の方から」
加奈子「いつもの適当な生返事かと」
京介「ひと聞き悪ぃなオイ」
加奈子「だってオメー、加奈子が何か言ってもだいたいスルーじゃん」
京介「全部まともに聞いてたら身が保たねぇし」
加奈子「甲斐性なし」
京介「――加奈子はプールに行きたくない、と」
加奈子「行きたいいきたい。嘘うそ。きょーすけ大好き」
京介「逆に気持ちいいくらいの手のひら返し、来ました」
加奈子「てか、マジかよ本当に」
京介「何回確認すんだよ。俺ってそんな信用ねぇ?」
加奈子「そーゆーコトはもっと早く言ってくれヨ水着どーすんだヨこないだ撮影でもらったやつでいーかなー」
京介「喜んでんだか困ってんだか」
加奈子「……あ、ダメだわアレ」
京介「まさかの困ってる方だった。――何で。何が『ダメ』」
加奈子「ビキニなのヨ。もらったやつ」
京介「いいじゃんそれで。むしろ是非それで」
加奈子「オメーこそ気持ちぃーくれーの欲望丸出しじゃねーか」
京介「いやいや。コレはそういうコトじゃない」
加奈子「じゃー、どーゆーコトよ」
京介「加奈子は可愛いからビキニが似合う、つーコト」
加奈子「お……? ぅおぉえぇぇぇ!?」
京介「……すげぇ驚き方するな、お前」
加奈子「え、や、だって……、えええ!? 何だヨどーしたんだヨ京介今日は」
京介「『どーした』て」
加奈子「プール行こーとか加奈子のこと可愛いとか……、あ、何か変なもん食った?」
京介「カノジョのこと褒めたら食生活の心配されるカレシって俺くらいだよなー」
加奈子「それとも実は加奈子に隠れて何か悪ぃコトしてて、それがウシロメタくて」
京介「『悪ぃコト』て」
加奈子「えぇと……、あ。う、浮気とか」
京介「何でそんなんせにゃならん。加奈子がいるのに」
加奈子「……」
京介「どうした」
加奈子「な、な、な、何ふつーに否定してくれてんだヨ! リアクションできねーだろーが!」
京介「顔真っ赤だぞお前」
加奈子「暑ぃからだヨ!」
京介「左様か」
加奈子「違ぇヨ! オメーが恥ずかしーコトゆーからだヨ!」
京介「左様か」
加奈子「……」
京介「……」
加奈子「――あの、さ?」
京介「ん?」
加奈子「加奈子って……、可愛いか?」
京介「お前いつも自分で自分のこと、可愛い可愛い言ってね?」
加奈子「そーだけど……、京介的には、さ。どーかなー、って――」
京介「可愛いぞ、俺的にも」
加奈子「……!」
京介「まぁ、時々憎たらしいけど」
加奈子「――って、どっちなんだヨ」
京介「憎たらしいとこも可愛いんだ」
加奈子「……!!」
京介「可愛いカノジョだから、プールとか行きたいと思うし」
加奈子「――お、お」
京介「ビキニも似合うと思う」
加奈子「おぅ……」
京介「以上」
加奈子「……」
京介「……」
加奈子「――マジで?」
京介「マジだ」
加奈子「そ……、そっか……、マジか……」
京介「そうだ。特に――」
加奈子「と、『特に』?」
京介「ぽっこりしたおなかとかぺったんこの胸とか、めちゃくちゃ可愛い」
加奈子「ぐぁ……っ、ちきしょう! オチがある話かヨ! ちょっと喜んでたらコレだ!」
京介「釣られたなぁ、加奈子」
加奈子「ここここのやろー……っ」
京介「可愛かったぞ――、照れっぷりとかな」
加奈子「ててててめー、そ、そこに寝ろ。踏んでやる……っ」
京介「望むところよ」
加奈子「望むのかヨ!」
京介「加奈子の足の裏って、小さくてひんやりしててぷにっとしてて、すげぇ気持ちいいからな」
加奈子「ほ、褒められてるっぽいのに全然嬉しくねぇ!?」
◇
京介「それで結局、何でビキニはダメなんだ?」
加奈子「――は?」
京介「『は?』じゃなくて。俺としては何が何でも着てもらいたいんだが」
加奈子「や、え……? 釣りだったんだろ? プールとか」
京介「まぁ確かに多少、釣りもしたけども。プールに行くのも、加奈子が可愛いのも、ビキニが似合うのも、それはそれで嘘じゃねぇぞ?」
加奈子「……」
京介「どうした」
加奈子「まぎらわしーんだヨ!」
京介「怒られた」
加奈子「怒るわ!」
◇
京介「で――」
加奈子「そんな気になるか、ビキニ」
京介「重要なところなんだ」
加奈子「うわー……、真顔だヨコイツ」
京介「真顔にもなる」
加奈子「必死かヨ。――や。だって、ほら……、ビキニだぜ?」
京介「おぅ」
加奈子「そんで……、やんだろ? ウォータースライダー」
京介「――あぁ。そういう」
加奈子「だべ。絶対ズレね? つー話」
京介「うーん……」
加奈子「ヤバくね? 加奈子、露出プレイじゃね?」
京介「――いや、大丈夫だろう」
加奈子「何でヨ……、ってまさか」
京介「ん?」
加奈子「まだ言うか」
京介「『まだ』?」
加奈子「そんな『ぺったんこ』見られたとこで、とか」
京介「根に持ってるなぁ」
加奈子「持つわ!」
京介「――そういうコトじゃねぇって」
加奈子「じゃー、何でヨ」
京介「一緒に滑るつもりだからな、俺。加奈子と。ウォータースライダー」
加奈子「そりゃ……、うん。加奈子もそーしてーな。うん」
京介「なら大丈夫じゃね? 俺がガードできる」
加奈子「『ガード』て」
京介「俺が後ろから加奈子を抱っこして――」
加奈子「すっげーヤな予感」
京介「この手でビキニ、押さえとけばいい。ズレないように」
加奈子「当たっちまったヨヤな予感」
京介「どうだ。名案だろう」
加奈子「……あー。名案だなー」
京介「冷ややかな目での同意、いただきました」
加奈子「――オメーって本当、エロいコトしか頭にねーのな」
京介「――それは、ちょっと違う」
加奈子「どー違うっての?」
京介「俺の頭にあるのは、《加奈子との》エロいコトだ!」
加奈子「……」
京介「……」
加奈子「ドヤ顔してくれてるとこ悪ぃんだけど……、キュンとか来ねーから。ソレ」
京介「え、ダメか今の」
加奈子「何でいーと思ったんだ? つーレベル」
京介「ぐぬぬ」
加奈子「はぁ……」
京介「ため息、いただきました」
加奈子「――まー、でも?」
京介「ん?」
加奈子「きょーすけがどーしてもやるつったら、加奈子が抵抗してもムダだしなー。結局触られちゃうんだろーなー。力じゃかなわねーし」
京介「……そういうふうに言われると、なんかヘコむんだが……、俺いつもそんなんか? 無理矢理か?」
加奈子「『無理矢理』つーコトはねーけど。加奈子もイヤなわけじゃねーし?」
京介「……お前、凄ぇコト言ってるぞ」
加奈子「言ってて自分でもそー思った」
京介「キュンと来たぜ」
加奈子「きひ。――けど、な」
京介「『けど』」
加奈子「きょーすけはでけーし、加奈子は小せーから……、キツい、つーのとはちょっと違うんだけど、まー、そんな感じにはなんのヨ」
京介「……」
加奈子「念のために言っとくけど? 背の高さとかが全然違う、的な話ヨ?」
京介「も、もちろん? 分かっているとも」
加奈子「嘘つけ」
京介「うっ」
加奈子「エロい話だと思っただろ」
京介「つーか、お前もわざと変な言い方しただろ! ツッコミが早すぎる!」
加奈子「えー? 自分のエロ脳を加奈子のせいにすんのー? えー?」
京介「に、憎たらしい!」
加奈子「ひひひ。――まー、そーゆーワケだから」
京介「――おぅ……」
加奈子「すんなら、あんまガッとすんなよ? 優しくな」
京介「……ん!?」
加奈子「どーした? 加奈子のコトじっと見て」
京介「……今の、『おっけー』って言ってないか?」
加奈子「言ってねーヨ?」
京介「そうか……?」
加奈子「『おっけー』とは言わねーけど、『ありえねー』とも言わねーよ、つーとこ」
京介「……難しいことを言うなぁ」
加奈子「まー、言っても水着ズレんのはやっぱ困るし? それに――」
京介「『それに』?」
加奈子「ちょっとエロい感じにさー、『触るぞー』『こらー触んなー』とかいちゃつくの、しょーじきけっこー好きだし?」
京介「……」
加奈子「デートってさー、そーゆーコトしてーじゃん?」
京介「――加奈子」
加奈子「何ヨ」
京介「お前は最高だ」
加奈子「今ごろ分かったのかヨ」
京介「偉そう!」
加奈子「にひひ」
◇
京介「――待てよ?」
加奈子「あん?」
京介「……」
加奈子「どーした」
京介「俺、大変なことに気づいてしまったんだが」
加奈子「あ、絶対ロクでもねーコトだわコレ」
京介「まぁそう言わんと。話だけでも聞いてくれ」
加奈子「聞きたくねーなー……、何だヨ」
京介「いや、最初から水着押さえとくより、ズレちゃったのを隠した方が美味しくね? と」
加奈子「……」
京介「どうだろう」
加奈子「……ほらコレだ」
京介「『ほらコレだ』いただきました!」
加奈子「予想通りじゃねーかロクでもねぇ……、きょーすけって、すーぐちょーしに乗るとこあるよなー」
京介「それはわりと、お互いさまって気がするぞ」
加奈子「――で、何ヨ? よーするに、直接触りたいってか」
京介「はい!」
加奈子「返事良すぎだろ」
京介「いわば『他人手ブラ』をしたい!」
加奈子「……」
京介「したい」
加奈子「馬鹿じゃねーの?」
京介「デスヨネー」
加奈子「『他人』て何だヨ。カレシだろ。『カレシ手ブラ』って言えヨ」
京介「……え? そこ? 手ブラ自体はいいのか?」
加奈子「いーわけねーだろ」
京介「デスヨネー」
加奈子「『美味しい』て、ソレ美味しーのオメーだけだろ」
京介「デスヨネー」
加奈子「『デスヨネー』じゃねーヨ」
京介「デスヨネー」
加奈子「……」
京介「……」
加奈子「――けど」
京介「おっ」
加奈子「きょーすけがどーしてもやるつったら加奈子が抵抗してもムダ、なんだよなー」
京介「『おっけー』いただきました!」
加奈子「だから、おっけーじゃねーっての」
京介「分かってる、分かっているとも」
加奈子「うーん……、加奈子ってきょーすけのコト、甘やかしすぎなのかなー」
京介「――ところで」
加奈子「……まだ何かあんのかヨ」
京介「合意をみたところで、ひとつ提案があるんだが」
加奈子「あ、絶対ロクでもねーコトだわコレ」
京介「まぁそう言わんと。話だけでも聞いてくれ」
加奈子「何なんだヨ」
京介「『カレシ手ブラ』の件……、見てから隠す、ではどうしてもラグが出ると思うんだ」
加奈子「あん……?」
京介「それでは、きっと遅い」
加奈子「そりゃ……、まー、そーだろーけど……、だから?」
京介「だからラグをなくすために、あらかじめ隠しておきたい」
加奈子「ん……? 何? やっぱし水着押さえるコトにする、つーこと? ――おいきょーすけ、大丈夫か? 熱中症か?」
京介「何故かガチの心配されてる」
加奈子「だってオメー、直接触るより水着の上からの方がいーとか、ありえねーだろ。高坂京介が」
京介「あれ? 俺の評価ってわりとどん底?」
加奈子「今さら何言ってんだ」
京介「ひでぇ!」
加奈子「ひひっ」
京介「――そうじゃなくて、だな」
加奈子「おぅ」
京介「直接がいいんだ、もちろん。そこを譲る気はない」
加奈子「おぅ……?」
京介「……俺に言えるのは、ここまでだ」
加奈子「お、おぅ……?」
京介「……」
加奈子「ん……?」
京介「……」
加奈子「――あ……っ!」
京介「はい」
加奈子「そ、そーゆーコトかヨ……っ!」
京介「はい」
加奈子「……」
京介「……」
加奈子「はぁあぁぁぁあああ……」
京介「深い深いため息、いただきました!」
加奈子「加奈子のビキニの中に、手ェ突っ込みてー、と……?」
京介「はい!」
加奈子「……」
京介「……」
加奈子「マジでちょーし乗ってくれたなー、テメー」
京介「はい」
加奈子「……」
京介「……」
加奈子「――ねー? きょーすけ?」
京介「とびっきり可愛い声、かーらーのー?」
加奈子「オメー本当、ちょっとそこ寝ろ」
京介「ドスの利いた声と真顔、いただきました!」
(おしまい)