た……、
大変なことに、なっちゃった……。
*
――あ。
いえいえ。
そっちじゃなくて。
「どりるさん、朝から大暴れ」のことじゃなくて。
――まぁ……、
そっちはそっちで、大変だったのには、違いないけど。
むしろ、大変すぎたんだけど。
それどころか、めちゃくちゃだったんだけど。
そりゃ……、ね。
その気持ちは、私にだって、判る。
痛いほど、判る。
判りますよ。
判りますとも。
どりるさんがどうして、そうなっちゃうのか――。
そんな……、
朝から。
騎士さまに迫られちゃったりしたら。
愛をささやかれたり、しちゃったら。
びっくりするのは、しかたないこと。
とり乱すのは、無理もないこと。
たとえどんなに、
本当には、嬉しいくらいなことで、あったとしても……、
本当には、見せびらかしたいくらいなことで、あったとしても……、
素直に、そうするわけにはいかない。
素直に、喜ぶわけにはいかない。
やっぱり、恥ずかしいから――。
だから、照れ隠し。
照れ隠しに、ジタバタしてしまう。
――判ります、とも。
その気持ち。
私だって、きっと、そうなる。
騎士さまにそういうコト、されちゃったら……、
きゃー。
そんな!
そんなそんな!
そんなコト!
こんな、朝っぱらから!
みんな見てますよぅ!
いけません!
いけませんってば!
……。
もう……。
少しだけ、ですよ……?
……。
……はぁあ……。
……。
――……、?
あれ?
――あ。
あぁ。
そうそう。
そうだったそうだった。
話の途中だったっけ……。
……。
話――。
……。
えぇとー。
何の話だったかなー。
……。
――あ。
あぁ。
そうそう。
そうだったそうだった。
「どりるさんの気持ちは判る」というお話だった。
そうそう。
そうだったそうだった。
そう――。
判ります、とも。
その気持ち。
けど……、
ただ、どりるさん。
貴女のジタバタは――、
大変すぎるんです。
めちゃくちゃすぎるんです。
そこのところは、もうちょっと考えていただきたく。
注意していただきたく。
できれば、控えていただきたく。
だって、
騎士さま、また傷を負ってしまったじゃないですか。
――そりゃ……。
告白しちゃえば私、騎士さまのお手当をする時、確かに、大きな喜びを感じてますよ。
嬉しいな、ってなりますよ。
楽しんですら、いるのかもしれませんよ。
それはつまり、騎士さまの負傷を望んでいるのと同じコトだ、と言えるのではないか。
どりるさんの気持ちは、理解できるところのものでもあるし、その狼藉を肯定してる部分も、どこかにあるのではないか。
そう聞かれたら……、
まったくない、ひとかけらもない、
――とは、断言しきれない私ですよ。
でも、
やっぱり、
それは所詮、単なるワガママ。
いけない考え方。
私の出番なんて、本当は、ない方がいい。
判ってます。
だから、
きっぱり否定できるように、私は、強くなろうと思います。
努力しようと思います。
私は騎士さまの負傷を望まない。
私はどりるさんの狼藉を肯定しない。
なので、
どりるさん。
貴女の気持ちは判りますが、自重してください。
そう言わせていただきます。
「あのさ」
はい?
「なんか、勝手なシナリオを作ってない?」
うーん。
何のことでしょうか。うふふ。
*
とにかく。
何にしても。
そっちは既に、解決済み。
騎士さまが立ち向かって、取り組んで、
私は、少しばかり、後のフォローをして、
それで、それは、一応の終結をみた。
「どりるさん、大暴れ」は既に、解決済み。
もはや過去のこと。
「大変なこと」というのは――、
今まさに、現在進行形なこと。
*
そもそも。
では、私たちは、どこで、何をしてるのか、っていうと。
場所は、武具屋さん。
目的は、お買いもの。
そう。
昨日は疲れててできなかったお買いものをするために、改めて、武具屋さんを訪問、な私たちで、
それも、メインのターゲットは防具、な私たちで、
特に鎧!、な私たちで、
欲しいものは他にも、例えば靴とか、いろいろあるけれど、とりあえずは鎧を新調しよう。
いい鎧に着替えよう。
そんな意見で一致してる、私たちだった。
一度でも森に入って、そういう意見にならないひとはいないと思う。
で。
どれがいいかなぁ、って品定めを始めた私たち。
――これは着れそうにない。
――これは着れる。
――これは……、着れないこともないけど、これを着て歩き続けるのは厳しそう、ましてや何かと戦うなんて。
試着大会。
着せ替え大会。
わいわいやって、
お財布とも相談して、
これにしよう、って品物が、みんな、それぞれに決まった。
けれども、
よし、お会計――、とレジに進むわけにはいかなかった。
すぐには。
サイズの問題が、あったから。
ベルトなんかで調整できるようにはなってたけれど、しっくりこないところは、どうしても残っちゃってて。
それは、オーダ・メイド品じゃない以上、避けられないことではあるものの……。
とはいえ、
なら、しかたないか、と簡単には妥協したくもなくて。
着心地だって、重要なポイント。
とはいえ、とはいえ、
特注するほどの資金までは、あるはずもまた、なくて。
困ったなぁ。
うーん、どうしよう。
――というわけで、店主さんに相談してみた私たち。
そうしたら、店主さん曰く、
「仕立て直しも、受けつけてるよ」とのことだった。
*
私たちは喜んで、それを頼むことにした。
「加工する量によっては、別料金になっちゃうけど……」
だそうだったから、諸手を挙げてもいられなかったけど。
それでも、基本的には、悪い話じゃなかったから。
めでたしめでたし。
こうして私たちは、新しい装備を手に入れたのである――。
*
と、終われたら良かったのに。
そうはいかなかった。
直後に、問題が発生したんだ。
しちゃったんだ。
めでたくなくなっちゃったんだ。
良くなくなっちゃったんだ。
その原因は、店主さんの発言。
――要求。
といっても……、
その内容、それ自体は、至極当然のことで、
もっともなことで、
もっともすぎるくらいの、ことで、
だから、
店主さんを責める方が間違ってる、ってものではあった。
それでも……、ね。
それでも、
あれは、爆弾発言だったよ、と私は思う――。
「じゃあ、サイズ測って申告してもらえるかな?」
そして、
レジカウンタに置かれる、
筆記用具。
メモ用紙。
――巻き尺。
*
……。
お店の中が、シーン、とした。
……。
「……!?」
お店の中の空気が、大きく跳びはねた。
びっくりした感じ。
慌ただしくなった感じ。
騒がしい感じ。
それから――、
静かに、
張りつめる。
何だか、
何故だか、
お互いの様子を、出方をうかがうような、
私たち、
4人。
そう、
「4人」だ。
ひとり、そうじゃないひとがいた。
動じてないひとがいた。
それは、
騎士さま。
「はーい」
普通に、返事をして、
普通に、店主さんからスペシャル・アイテムを受け取って、
普通に、私たちの方に向き直ってた。
平常心。
さすがは騎士さま。
すごいなぁ――。
そんな、すごい騎士さまは、
歩いて、
私たちの方に――、
違う。
私の方、に。
私の、すぐ目の前まで、
歩いて、くる。
歩いてきて、
「じゃあ、くりすけ――」
手を、
巻き尺を持った手を、
「はい」
と差し出してきて、
「は」
思わず、手を出してしまう私。
両手で、受け皿のかたちを作って。
すると、
そこに、騎士さまは、
「よろしく」
巻き尺を載せた――。
……。
「……はい?」
どういう意味、なの、かなぁ……?
そんな疑問符が、
たぶん、思いっきり、顔に出ちゃってたに違いない。
騎士さまは、説明してくれた。
笑って。
「身体測定は、保健委員さんのお仕事」
*
……。
えぇと……。
私?
私が……、やる?
私に……、やれ?
と?
身体測定……。
そういうアレを?
どういうアレを?
つまり。
こういうアレを?
騎士さまのお身体に、これを巻いたり。
巻きつけたり。
きゅっ、と締めたり。
きゅーうっ、と締めたり。
そうして、
数値を読み取ったり。
スリーサイズを明らかにしたり。
そういう――、
そういうアレを、
実行せよ、とおっしゃる?
この、私に?
私に、やれ、
と?
……。
――た……、
――大変なことに、なっちゃった……。
……。
や、
やらなければ、いけません、か?
私、が?
……。
っていうか、
……。
私がやっても、いいんですか?
――やっちゃっても、いいんですか?
「乗り気?」
うふふ。
(続く)