ヒドいよね。
僕はただ、自己紹介しただけなのに。
それも、「自己紹介してくれ」って言われて、したことだっていうのに。
それなのに……。
名前と職業を言った途端に、
びゅうっ、って何か飛んできて、
それはロープで、
ロープは、ぎゅるぎゅるぎゅる、って僕の身体の周りを踊り回って、
ぎゅうっ、って締まった。
僕、縛られた。
しかも。
縛られて終わりじゃなくて、
ぎゅわーん、って……、
僕、浮いたよ。
足がね。床から離れた。
縛られて、ぶら下げられた、ってコト。
天井から――。
何コレ!
ヒドいよ!
「ちょっとちょっと」
パラディンさんが――、
えっと。
これじゃあ、ワケが判んないかな。今さらだけど。
順番に言うとね。
まず……。
僕、ギルドで求人票を見たのね。
その求人票には、いろいろ変なコトが書いてあったんだけど、「バードは要らない」とは書いてなかったから、僕は行った。
――行ったというか、つまり、来た、ってことだね。ここへ。面接会場。宿屋。客室のひとつ。
部屋の前まで来て、ちょっと緊張してきて、どきどきになってみたり(自分でも、珍しいことだなぁ、って思った)しながらノックしたら、「はーい」って返事があって、「どうぞー」って返事もあって、僕はドアを開けた。
そしたら、部屋の中には、金髪のパラディンさんと、栗毛のメディックさんと、髪の毛ぐるぐる巻いてるダークハンターのひとがいた。
3人とも、女のひと。
「こんにちはー」とか「はじめましてー」とか「求人票見てきたんですけどー」とか、とりあえずのごあいさつを、おたがい、ひと通り、したのね。
で、それが済んでからだけど、3人の内の、見た感じ、パラディンさんなひとに言われたのね。
「自己紹介、してくださいな」って。
このひと、にこにこしててね。僕、ほっとしたよ。
うん。ほっとさせる笑顔だったんだ、そのひと。優しそうでさ。
ほら、パラディンのひとって……、
なんて言うのかな? 騎士道? そんな感じで、堅苦しいひとが多そうじゃない?
でも、このひとは笑ってて。
だから、安心感も倍増ってやつ。
で、僕は安心した。
安心して、自己紹介して――、
したのに、
ぎゅるぎゅる、ぎゅうー、ぎゅわーん、
だった、というわけ。
ヒドいよね。
ただ、ヒドいコトしたのは、パラディンさんじゃなかったから、裏切られたー、だまされたー、とは、あんまり思わなかった。
ヒドいことしたのは、メディックさん――でも、もちろん、なくて、ダークハンターのひと。
まぁ、ダークハンターっていえば、縛って痛めつけるのがオシゴト、みたいなところもあるし、油断してた僕が悪い、って部分もあるのかもしれない。
けど……。
それにしたって、
自己紹介しただけで、これはないと思うんだ。
そんなにマズかったかなぁ……、僕の自己紹介。
「僕はニーチェ、バードなんだよ」
って言っただけ、なんだけど。
*
「私ね」
ダークハンターのひとが、ものすごく悪い目つき(ひっくり返したカマボコみたいな形だった)で僕をにらみつけながら、言った。「そういう『いかにも』なキャラ、好きじゃないのよ」
そんなコト言われても。
キャラとか、そういうのじゃないもん……。
「その、『もん』とかいう語尾も気に入らない……っ」
うわ。
ごめんなさいごめんなさい。揺らさないで揺らさないで。正直に言います。自分でも、これはちょっと、狙ってるキャラ造りっぽいかも、とは思ってるんです。けど自分としては、気がついたらこんな感じになってた、ってだけなんです。作ろうとして作ったわけじゃないんです。だから揺らさないでー。
ね、ねぇ、助けてよパラディンさん。にこにこしてないで。
助けてよメディックさん。おろおろしてないで……、
あ。
うわ。
――ちょ……っ。
そろそろ本当に勘弁してください。揺すぶられてるだけならともかくも……。
え?
「何」って……?
えっと。ロープが、ね。
要するにあの。
食い込んで、来ちゃって。
あはは。
え?
「どこに」って……?
それはつまり、その。なんていうか。ほら……。
ね?
判るよね?
え?
「判らない」って……?
嘘!
え?
「言ってくれなきゃ判らない」……?
い――、
言えないよ! 言えるわけないじゃん!