どうして、迷宮に潜ろうと思ったのか。
冒険者になろうと思ったのか。
それを説明するのは、難しい――。
いや。
説明するだけなら、簡単なのだけれど。
ちゃんと伝わるかどうかが、あやしい。変にとらえられる可能性の方が高い。誤解とか曲解とかいうやつをされそうで、そうなれば結局、説明できなかったのと、それは同じこと。
でも。
言うだけは言ってみようか。
どうして、迷宮に潜ろうと思ったのか。
冒険者になろうと思ったのか。
それは。
好奇心から。
面白半分に。
退屈しのぎになると思って。
――ほら。
ふざけるな、って感じ?
だから、それが誤解だ。
私は真面目だ。
真面目に、面白そうなことを求めているだけ。
ふざけているつもりは、断じて、ない。
だって。
即死してしまうじゃないか。
そんな態度であったなら。
本気で、丁寧に、生き抜こうとしていなかったなら。
世界樹の迷宮の内部というところは、そういう場所のはず。
そんなことになってしまったら、つまらないし。
だから私は、あくまで真面目だ。
それに――。
「面白半分」といったが、では残りの半分は何かといえば、それは、生活のため、であったりするわけで。
こちらは、それこそ切実で。
気を抜いている余裕なんか、ない。
ご理解いただけただろうか。
*
さて。
真剣な私なればこそ、事前に計算と検討とを重ねてもいる。
迷宮に潜って得られるものは、リターンばかりではないのだから。時には、リスクを負わねばならないことも――。
逆か。
普段はリスクばかり。時にリターンがあることも、ある。
そのくらいかな。
どっちにしても。
背負わされるリスク。支えきれるだろうか。それはただただ覆いかぶさってくるばかりのもの、だろうか。ひたすら耐えるしかないもの、だろうか。軽減は不可能だろうか。もしも可能だというなら、どんな手段によれば? 装備品、道具、スキル。何が必要だ?
そして、それを超えた先にあるリターン。
どれほどのものを、得られるのだろう。
そもそも存在するのだろうか。危険を冒してまで得るべきものは。
――そもそも、冒険者とは、それを確かめるために生きているもののこと、それこそを、そう呼ぶのかもしれない。
深いなぁ。
と、感心してる場合じゃなくて……。
何故って。
これは要するに、冒険者になっていいものかどうか、今、検討しなければならないのに、その答を得られるのは、未来。冒険者になってしまった後でなければ無理だ、ということになる。
構造的欠陥、というやつか。
困ったなぁ。
ともあれ。
そんなような、計算をした。
そして。
こんな、安全なところで進めたシミュレーションなんて、現実の前では、きっと、モロくも崩れ去るものなのだろうな、と。
それさえも、計算の内で。
そんな、揚げ足取りのようなことまで考えて、その上で、それでもなりたい、と私は、冒険者になる方を選択した。
覚悟を、決めて。
決めた――。
つもりだった。
しかし。
所詮は、「つもり」のことだったらしい。
そう……。
いくら損益の計算をしたといって、それは、冒険者の現実を知らない者がしたことなのだ。そもそも与える数字からして間違っていたりするのだ。
それでは、正しい解答が得られるはずがない。
そんな誤答に基づいた覚悟なんて、それこそ、モロくも崩れ去る以外にない。
甘かった。
私が甘かった。
現実とは――冒険者の現実とは、もっと、もっともっと、本当に、厳しいものだった。
私は、とんでもなく予想外で、斜め上の展開に、いきなり襲われたのである。
現実の窮地の中では、素人考えからの覚悟なんて、まったく役に立たない――、初っ端から、そう思い知らされたのである。
「あんたのギルド名を決めてくれ。
もしかしたら将来、有名になるかもしれないから、せいぜい、格好いい名前にしとけよ?」
そんなの!
計算の外だったよ!
思いつかないよ!
決まらないよ!
もう夕方だぞ!
冒険者登録に来たの、朝だったのに!
何だ、この窮地!