香里さん 2012.11.15

香里「ねぇ相沢くん。ちょっとすごい罰ゲームを思いついたんだけどやってみない?」
祐一「……」
香里「ねぇ相沢くん。ちょっとすごい罰ゲームを思いついたんだけどやってみない?」
祐一「いや聞こえなかったわけじゃなくて」
香里「なんだ。クラス固有スキルを使ったのかと思ったじゃない」
祐一「何じゃそら」
香里「だってほら、相沢くんって萌え美少女満載系作品の主人公でしょ?」
祐一「……自ら肯定するには難しいものがある質問だなー」
香里「――待てよ? てことはあたしも萌え美少女か」
祐一「あっさり肯定しやがるなー」
香里「少なくとも黙っていれば見た目は萌え美少女といって差し支えないと思う」
祐一「傲慢なんだか謙虚なんだか」
香里「――脱線したわ。まぁとにかく、相沢くんは主人公なのよ萌え美少女満載系作品の」
祐一「どうでもいいけど、そういうのってふつう『ハーレム』とか言わね? 『萌え美少女満載系』って聞いたことない」
香里「ハーレムというには、『Kanon』は肌色成分が少ない」
祐一「明確な理由があっての選択だとは思わなかった」
香里「もっと水着回とかシャワー回とか温泉回とかあれば、そういっても良かったんだけど」
祐一「――別枠なのか、シャワー回と温泉回」
香里「そりゃそうよ。シャワー回は主人公がヒロインの入浴中に間違ってお風呂場のドアを開けちゃう回。温泉回は深夜ふたりでこっそり混浴する回。全然違う」
祐一「明確な理由があっての分類だとは思わなかった」
香里「ところで『Kanonは肌色成分が少ない』ってタイトルのラノベ、ありそうよね」
祐一「略称は『はがない』だな」
香里「分かってて言ってるでしょ」
祐一「お前がな」
香里「――また脱線したわ。何にしても、相沢くんは主人公なのよ萌女満作品の」
祐一「も、『もじょまんさくひん』!?」
香里「いちいち『萌え美少女満載系作品』というのも面倒くさいから大胆に略してみたところ、なんか女の子の股間のところが豪毛、という感じになってしまった。正直これは失敗だったと思う」
祐一「誰がつまびらかにせぇ言うたか」
香里「『つまびらか』ってどことなく『ちょっと遊んでる人妻』感のある言葉よね」
祐一「どんな感だそれは待て説明しなくていい」
香里「ヒント。『つまびらびらか』だと『すごい遊んでる人妻』感になります」
祐一「しなくていいって言ったのに!」

秋子「念のために言っておきますが私のは綺麗なものですよ」

香里「なんか今頭の中に直接声が響いてきたんだけど」
祐一「それで済んでるうちに話題を変えろ。でないとそのうち頭の中を直接書き換えられるぞ」
香里「それは……、怖いわね。――別の話をしましょう」
祐一「自分で言っといて何だが、真に受けるかふつう」
香里「でも実際、テレパシーは届いちゃってるわけだし……」
祐一「うーむ」
香里「――大丈夫かな」
祐一「うん?」
香里「話変えるだけで大丈夫かな」
祐一「大丈夫じゃないかもしれんが、かといって何ができる」
香里「フォロー入れるとか」
祐一「どんな」
香里「例えば『秋子さんはびらびらなんかない素敵なひとです』って連呼する」
祐一「ビルの端に向かって後ろ歩きするのとえらく変わらん行為だぞそれは」
香里「じゃあ――、ラノベを書いて提出するとか」
祐一「それが何でフォローになるんだよっていうかまたラノベかよ。ラノベ好きだな香里」
香里「いいじゃないラノベ。分かりやすいし」
祐一「最近はエロいの多いしな」
香里「それは偏見。物語として面白いものもあるわ」
祐一「その点で香里に否定されるとは思わなかった」
香里「驚いたか」
祐一「驚いた」
香里「よろしい」
祐一「偉そうだなー。――で、それで何でラノベなんだよ。秋子さんへのフォローになるって、どんなラノベだ」
香里「主人公は秋子さん。その恋人役が相沢くん。相沢くんは秋子さんへの好意と肉欲がもう丸出しで、タイトルは『叔母さんだけど愛があれば関係ないよねっ』で、略称は『おばあい』というまったく新しいタイトルの」
祐一「何ィー!?」
香里「読んだら秋子さん、もぉ、どっきどき☆」
祐一「ちょ……っ」
香里「夕食にウナギとかデザートに栄養ドリンクとか出て来たら、相沢くん、要注意☆」
祐一「『ウナギ』!? 『栄養ドリンク』!?」
香里「あぁ……、なんて行き届いたフォロー態勢なのかしらあたし。自分で自分が怖い」
祐一「怖いのは俺の方だよ! それガチで言ってるだろ! ようやくしおらしくなってきたなぁ、と思ってたらコレだよ!」
香里「誰がノーパンバニラアイスの話をしている」
祐一「『栞らしく』じゃなくて」
香里「今ヒドい超反応を見た」
祐一「――う……」
香里「言ってやろ。栞に言ってやろ」
祐一「よ、よせ!」
香里「栞、泣くぞー」
祐一「うぅ……、け、けど、そもそもは香里が言ったこと……」
香里「それを栞のことだと認識したのは相沢くん」
祐一「うぅう……」
香里「それも『即』」
祐一「――何が望みだ」
香里「そう来なくちゃ」
祐一「く……っ」
香里「というわけで相沢くん、あなたには――」
祐一「お、俺には……?」
香里「あたしが『おばあい』を書くのを黙認してもらいます」
祐一「書く気なのかマジで」

    ○

香里「当面の問題は片づいたところで――」
祐一「片づいたのかな……」
香里「話を戻すけど」
祐一「――どんな話してたっけ」
香里「もじょまん作品の主人公の話。その固有スキルの話」
祐一「話は思い出したけど、失敗だと思った言葉をまた使うなよ」
香里「もじょまん作品の主人公って――」
祐一「本当は気に入ってる?」
香里「その本命が誰なのか、誰も知らない・知られちゃいけない・何も知らない・話しちゃいけない――、そういうものじゃない?」
祐一「そんなすべてを捨ててたたかう男みたいに」
香里「だけど時には、被告白確定の状況になることもある」
祐一「そんな格ゲーみたいに」
香里「――そげン時にはこンスキル! 『本部の罠』!」
祐一「そんな地域限定みたいに」
香里「発動すると『くそっ、通信妨害か』のひと言で都合の悪い音声から聴覚を絶対保護!」
祐一「そんな特定の TPS みたいに」
香里「いやもしかしたら実際は小数点以下の確率で無効化に失敗するのかもだけど。気が遠くなるほど低い確率だがゼロではなくて、十分にレベルを上げ」
祐一「そんな特定の RPG の攻略本みたいに」
香里「さておき、どうあれ、このように、主人公はシナリオにとって都合の悪いものに対し、『消えろイレギュラー』することができるのであります」
祐一「そんな特定のロボ ACT みたいに」
香里「ここで、相沢くんもまた主人公であります。よってまずはその都合の悪い発言を、このスキルでもってぶち殺すことができるものであります」
祐一「そんなそげぶみたいに」
香里「最近はゲンコロって言うらしいわよソレ」
祐一「そんな――、水生昆虫みたいに」
香里「『そんなメイドロボ開発主任みたいに』って言うと思ったのに」
祐一「そう思うだろうと思って変えたんだ」
香里「く……っ、相沢くんの手のひらの上で、まんまと踊らされたというのか、このあたしが……」
祐一「久々の勝利感」
香里「略して『手まん』……」
祐一「もうちょっと味合わせてくれよ勝利感」

    ○

香里「さておき、あたしはそう思った。相沢くんはその主人公力を遺憾なく発揮してあたしの発言をスルーしてみせたんだ、と」
祐一「それは――、違う」
香里「そう、あなたはそれを否定した。――それならどうして、返答が遅れたの?」
祐一「やっとスタート地点まで戻ってこれた」
香里「本当に……、何だかずいぶん遠回りをしちゃったわね……」
祐一「そんなすれ違いを重ねたけどついには結婚にこぎつけた幼馴染みカップルみたいに」
香里「――さっきから思ってたんだけど」
祐一「うん?」
香里「指摘が的確すぎてなんか面白くない、というか」
祐一「……遠回りの悪夢再び、という予感はするが、しかしちょっとスルーできない――、香里」
香里「何かしら」
祐一「その感覚は、マニアの陥りやすい――、それこそ『罠』だ。ひねればいいというものじゃない」
香里「それは思考停止というものよ。もっとギリギリを――、読者には思いつけず、それでいて、指摘されれば一瞬で腑に落ちる、そんなポイントを突いていくべきじゃ?」
祐一「だが、毎回それでは疲れる」
香里「それには同意。それに山場ばかりだと、標高が高いだけの平地になっちゃうしね。緩急は必要という意味で異論はない」
祐一「フムン」
香里「おっぱいだって、重要なのは胸囲よりカップ数よね」
祐一「的確すぎるのはお前の方じゃないか?」
香里「それでもあたし的には、例えばさっきのだったら、『そんな前だけは結婚するまでダメってヒロインが言うからそれ以外のありとあらゆるプレイを試すことになってしまって、最終回になってようやくふつうに結ばれるカップルみたいに』くらいは言ってほしかった」
祐一「――いや、それは良くない」
香里「どうして?」
祐一「フェチやアブノーマルで売っておいて、最終回でノーマルになるのはどうかと思う」
香里「――なるほど。納得できる。それに頼もしい主張ね……、分かったわ。ここはあたしが退こう」
祐一「ところでコレ何の話?」
香里「そのツッコミを聞きたかった」
祐一「左様か」
香里「左様。――で?」
祐一「『で』?」
香里「あたしが何故質問を繰り返したのか、は説明したわ。今度は相沢くんの番。――相沢くんは何故質問をスルーしたの?」

    ○

祐一「あぁ……、いや、あれは別にスルーしたわけじゃ」
香里「したじゃん」
祐一「違う違う。結果的にそうなっただけ。反応したかったけどできなかっただけ」
香里「どうして」
祐一「どこからツッコもうかと考えてて」
香里「今や上や前や後ろや胸の谷間や脇の下や太ももの間なんかは当たり前で、パンツとおしりの間、あるいはニーソックスと太ももの間くらいはいわないと、予選通過も難しいらしいわ。寒い時代よね」
祐一「どこに、じゃなくて、どこから」
香里「あら」
祐一「そういう反応するだろうなぁ、と思ってた」
香里「あらら」
祐一「思ってたよりは、内容クドかったけど」
香里「良かった。かろうじて面目は保てたか」
祐一「何の安心だそれは。――そうじゃなくて」
香里「うん」
祐一「数年ぶりの登場なのに唐突すぎるだろ、とか、罰ゲームってのはゲームの敗者に課せられるペナルティであって直にやるもんじゃないだろ、とか、少なくとも楽しげに勧めるもんじゃないだろ、とか、さてどこからツッコもうか、とか――、どこからツッコむ、なんて言ったら香里また嬉々として曲解するだろうなぁ、とか」
香里「――相沢くん、ひとつ、言ってもいい?」
祐一「きっとロクでもない意見に違いない、と俺の勘が高らかに警鐘を鳴らしているが何」
香里「『直にやる』ってゴムなし・生みたいよね」
祐一「ほらコレだ」
香里「ゴムといえば――、これはあたしの持論なんだけど、ゴムって、ありかなしかでいえば、それはもちろん後者の方がエロ度高いと思う。けど、その差を補って余りあるものが、『ゴムを用意してコトに備える』という意気込みには存在すると思うのよ」
祐一「言いたいことはとてもよく分かるがそんな力強く語らないでどんな顔すればいいの」
香里「ゴムをくわえて誘う、なんかはその極致ね」
祐一「固い握手を交わしたくなってきた」
香里「……」
祐一「何だよ」
香里「すごいことに気がついちゃった」
祐一「きっとロクでもない発見に違いない、と俺の勘が高らかに警鐘を鳴らしているが何」
香里「ニンジャとかけまして、アレと解きます」
祐一「――は? 『ニンジャ』? というか『アレ』って……」
香里「伏せないで言ってあげようか?」
祐一「よ、よせ!」
香里「ちんp――」
祐一「『アレ』でいい! 『アレ』でいいから! だから……、えぇと、何? 『ニンジャ』? 何で『ニンジャ』?」
香里「必死ねー」
祐一「他人事かよ」
香里「ふふっ。――あのね、そのココロは……、どちらも、その実力がもっとも発揮されるのは防具いっさいなしの時です」
祐一「……チキショウ、納得だ」
香里「ちなみに」
祐一「うん?」
香里「防具には覆面も含まれます」
祐一「……う、ぐっ」
香里「防具には覆面も含まれます」
祐一「に……、二回言うな!」
香里「大事なモノのことなので二回言いました」
祐一「なんかちょっとフレーズ違う!」
香里「――それにしても」
祐一「まだ何か!?」
香里「さすがね、相沢くん」
祐一「何が!? 何の話!? ――ま、まさか……、皮肉?」
香里「『皮肉』って……、そんな、卑屈にならなくても」
祐一「べ、別に卑屈とかそんなんじゃ」
香里「そうなんだ」
祐一「そ、そうとも」
香里「――他意はない、と」
祐一「そうとも」
香里「『覆面』について思うところはない、と」
祐一「そうとも」
香里「……」
祐一「……」
香里「くすっ」
祐一「ドSの微笑ー!」
香里「――あ、そうだ」
祐一「な、何……?」
香里「今度タートルネック着てこよう」
祐一「ドSの発想ー!」
香里「あはははは。――このネタで、しばらく楽しめそう」
祐一「一生言われそうな気がする!」
香里「――え……」
祐一「うん?」
香里「それ……、まさか、プロポーズ?」
祐一「そりゃ確かにたった今の台詞だけ聞いたらそんな雰囲気だけど内容よく考えたらイヤすぎるだろ!」
香里「『一生俺の包茎のこといじってください』、と」
祐一「どんなお願いだよ! 上級者にもほどがあるだろ! というかズバリ言っちゃったよ!」
香里「婉曲表現にはもう飽きた」
祐一「飽きるほど婉曲的にしてたかなぁ!?」
香里「『メタルマックスか』って言うと思ったのに」
祐一「そんな余裕ないわ!」
香里「……、ふーむ」
祐一「……、何だよ」
香里「あせってる相沢くん、可愛い」
祐一「嬉しくねぇー!」
香里「――あ、そうだ」
祐一「またかよ! 今度は何だよ! 聞きたくないけど!」
香里「靴下とめるやつ、貸してあげようか」
祐一「へ?」
香里「ずり落ちないようにするやつ。糊みたいなの――、ほら、これ」
祐一「……? 突然、何? 何で?」
香里「剥いた皮引っ張って止めとくやつの代わりになる、って聞いたことが」
祐一「ええー!?」
香里「本当に効くかどうかは知らないけど」
祐一「もはや死体蹴りの域に達してますよねコレ」
香里「でもこれって、あたしのふくらはぎとか太ももとかに塗ったやつよ?」
祐一「……っ」
香里「あ、迷った」
祐一「し、しまった……、新しい火種を……」
香里「変態だわ。相沢くんは変態だわ。性的倒錯者だわ」
祐一「うわーん!」
香里「それとも、妖怪『足置いてけ』?」
祐一「うわーん! うわーん!」
香里「そういうことなら、糊なんかじゃなくて、いっそ靴下、あげようか?」
祐一「うわー……、へ?」
香里「だってどうせなら、におい嗅いだりちゅうちゅう吸ったりできた方がいいでしょ?」
祐一「――そ……、そう来たかーッ!?」
香里「それとも、履いてる状態のをいじりたい? 相沢くんが望むならあたし、靴下の足であなたの顔面を踏んであげてもいいわ」
祐一「香里の中の俺の評価、この短時間にどんだけ大暴落!?」
香里「『大暴落』? 何を言ってるの? 逆よ。大暴騰よ。素敵よ相沢くん。素晴らしいわ」
祐一「むしろ未曾有の高評価!? そこまで褒められても! そんなことで褒められても! というかコレ考えてみたら褒められてるのこの俺自身じゃなくて香里の妄想の中の俺じゃね!?」
香里「では、今から現実化すればいい。それで結果おーらい」
祐一「『現実化』って……」
香里「リアルに踏んであげるから悦びなさい」
祐一「ヒィイやっぱりそういうことかー!」
香里「もしくは、リアルにニーソの太ももで頭挟んであげるから悦びなさい」
祐一「そっちでお願いします」
香里「変態。――嬉しいけど」
祐一「嬉しいんかい」
香里「嬉しいわ。相沢くんもこちら側の人間だったなんて」
祐一「いえいえお代官さまには適いませんってマジで。俺なんかソフトでファッションで興味があるって程度のものですよ本当に。あんまり期待されても困りますから正直」
香里「――とは、いえ……」
祐一「聞いてる?」
香里「問題、なくもないのよね」
祐一「何についての危機感か知らんけど、『なくもない』程度の認識では絶対に危険だからねソレ」
香里「そうは言うがなフェチ獣欲を持てあました相沢くん――」
祐一「まとめてきた! しかも『フェチ獣欲』て!」

香里「そんな変態さんにとっては、『ゴムを買いに行く』なんて罰ゲームにならないでしょ? それどころかご褒美でしょ?」

    ○

祐一「はい……?」
香里「そんな変態さんにとっては、『ゴムを買いに行く』なんて罰ゲームにならないでしょ? むしろご褒美でしょ?」
祐一「繰り返さなくていいよ! ――何? 『変態さん』? 『ゴムを買いに行く』? 『罰ゲーム』……、『罰ゲーム』?」
香里「お気づきになりましたか」
祐一「まさか、最初に言ってた……?」
香里「そう、それ」
祐一「俺にやってみない?、と提案してた……?」
香里「そう、それ」
祐一「その、『罰ゲーム』が――」
香里「『ゴムを買いに行く』」
祐一「……」
香里「……」

祐一「ははっ」
香里「――何?」

祐一「それだけ?」
香里「――何ですって?」

祐一「それだけ? ここまで引っ張りまくっといて、それだけ? 『ちょっとすごい』とか煽っといて、それだけ?」
香里「何……、よ」
祐一「――ワハハハ!」
香里「何なのよ」
祐一「苦しい立場に追いこまれたようだな、美坂香里」
香里「『流行歌を歌えっ』」
祐一「当たり」
香里「よし」
祐一「――それはともかく……、俺がそれを、買ってみたことがないとでも?」
香里「……」
祐一「あるさ、かつて一度なっ!」
香里「『ヒューッ』」
祐一「当たり」
香里「よし」
祐一「――それはともかく……、お嬢さん? 男子高校生の性的好奇心ってやつを、舐めちゃいけないぜ」
香里「――ねぇ、相沢くん」
祐一「何かな?」
香里「その口調、変よ?」
祐一「そうかい?」
香里「まぁ……、いいけど」
祐一「ククク……、香里こそ、その態度はどうした? ずいぶんテンション低くないか?」
香里「……」
祐一「ムカついてる? 当てが外れて? 『突拍子もない』提案に俺があわてるところを見て、面白がってやるつもりだったのに?」
香里「……やっぱり、変よ?」
祐一「そうかい?」
香里「まぁ……、いいけど」
祐一「――あ」
香里「……何?」
祐一「そうか……、そういうことか。――さっき『さすがね』とか褒めてきたのも」
香里「……ご明察。話の軌道があの時、ゴムの方へと延びかけたから」
祐一「とっておきの隠し球とニアミス――、と。なるほど、それで」
香里「……」
祐一「……」

香里「だったら――」

祐一「うん?」
香里「だったら、やってみせて、って言ったら、やれるの? 買えるの?」
祐一「悪あがきか負け惜しみか捨て台詞か、って感じ」
香里「茶化さないで。――どうなの?」
祐一「まぁ、できる。大したことじゃない、とは言わないが」
香里「今すぐにでも?」
祐一「ムキになってるのか、疑ってるのか……、できるって」
香里「ふーん。――そこまで言う、なら」
祐一「え……、っ!?」
香里「証明してみせて☆」

    ○

祐一「あの……、香里さん?」
香里「何? ――まさか、やっぱりダメ、無理、とか言わないでしょうね? あれだけ大見得切っておいて」
祐一「そうじゃなくて……」
香里「じゃあ、何?」
祐一「……どうして腕にしがみついてきたのでしょうか」
香里「だって、証明してくれるんでしょ? 罰ゲームしてくれるんでしょ?」
祐一「するけど……」
香里「お店行くんでしょ? コンビニか、薬局か」
祐一「行くけど……」
香里「なら、腕、組まないと」
祐一「いや、その理屈はおかしい」
香里「ひょっとして、組むだけでは不満? 相沢くんの腕でπ/するくらいの密着を希望?」
祐一「香里はいろんな言葉を知ってるなぁっていうかそれはたいへん魅力的な提案ですっていうかそうじゃなくて」
香里「むにむにっ」
祐一「そうじゃなくてってば!」
香里「嫌?」
祐一「いいけども!」
香里「相沢くんって、正直だから好きよ」
祐一「それはどうも!」

    ○

香里「で? どうしたってのよ、いったい」
祐一「――ここまでしなくても、逃げないから」
香里「『逃げる』?」
祐一「それを警戒してのことじゃないのか?、コレ。――大きく出た分引っ込みがつかない俺。しかし買うのもイヤ。だから逃げ出す、と」
香里「そのつもりも、なくはないけど」
祐一「逃げないって」
香里「でも、それだけじゃないから」
祐一「……?」
香里「というより、これが――、これこそが目的なのよ。少なくとも、そのいち要素なのよ。大切な……」
祐一「……分からん」
香里「つまり、罰ゲームはすでに始まってる、ということ」
祐一「……具体的にお願いします。聞きたくないけど。聞いちゃいけない気はするけど。――もう遅い気もするけど」
香里「その通り」
祐一「デスヨネー」
香里「ふふっ。覚悟は決まっているようね。よろしい。――では」
祐一「ごくり」
香里「罰ゲームの『正確な』内容を発表することで、解説に換えさせていただきましょうか」
祐一「せ……、『正確な』?」

香里「それは――、『いかにもラブラブなバカップル風にクッソいっちゃいっちゃしながらお店に行き、入り、品定めをし、ふたりでレジに並び、ゴムを買う』です!」

祐一「う……、うぉおぉぉぉおおお!?」
香里「作戦名『オペレーション:俺たちこれからニャンニャンしちゃいます』!」
祐一「しょ……、昭和のフレーズぅぅぅううう!?」
香里「ちなみに、包みにリボンをつけるよう頼めたらボーナスポイント!」
祐一「ぼ……、ぼぉなすぽいんとぉぉぉおおお!?」
香里「『あ、袋はいいですすぐ使うんで』と言えたらシークレットボーナス!」
祐一「し……、しぃくれっとぉぉぉおおお!?」
香里「『僕』!」
祐一「『あるばいとぉぉぉおおお』!」
香里「……」
祐一「……」
香里「――よく対応できたわね」
祐一「極限状態だからな……、一時的に鋭くなってるんだ」

    ○

祐一「待った! 待った待った!」
香里「どうしたの?」
祐一「どうしたもこうしたも……、話が違うぞ!?」
香里「違いはしない。オプションが増えてるだけ」
祐一「だからそれが問題なんだってば! 聞いてない!」
香里「それこそ『違う』わ」
祐一「え……」
香里「『聞いてない』んじゃない。相沢くんは『聞かなかった』の」
祐一「えぇと……」
香里「『概要を聞いただけで、すべてを把握した気になった』の。まだ語られてない部分はあったのに」
祐一「そんな……」
香里「『【落胆する美坂香里】を見て、勝ったと早合点した』の。演技じゃないのかとは疑いもせず」
祐一「つまり、だました、と……」
香里「『だました』? ――相沢くん? あなた、誰としゃべっているつもりでいたの?」
祐一「……!」
香里「あたしよ? あたしなのよ? 美坂香里なのよ? あなたがしゃべっていた相手は」
祐一「!!」
香里「このあたしが、今さらたかがゴムそれだけでテンション上げるはず、ないでしょう?」
祐一「!!!」
香里「このあたしが、単に買いものをさせるだけ、なんて提案、するはずないでしょう?」
祐一「!!!!」
香里「そんなことは相沢くん、骨身にしみているはずでしょう?」
祐一「!!!!!」
香里「にもかかわらずあなたは! 刹那的な優越感に流され! 目先の攻撃チャンスにホイホイ食いつき! 疑似餌かもしれない、という警戒を怠り! 詳細を確認しなかった!」
祐一「……うぐぅ」
香里「――その迂闊さのツケは……、支払われなければならない。責任は問われなければならない。セキニンとってお嫁さんにもらわなければならない」
祐一「話変わってるよ!」
香里「ちっ、今度は聞いてたか……」
祐一「聞いてなかったらどうなってたんだよ!」
香里「――とにかく、そういうわけだから。あきらめなさい」
祐一「ぐぬぬ」
香里「理解できた? じゃあ、レッツビギンでございます☆」
祐一「ま……、待て待て待て」
香里「何よ。まだ何か?」
祐一「ある、言いたいこと、ある」
香里「往生際の悪い……」
祐一「いやいや、俺のことじゃなくて。――それは分かったよ。もう分かった。香里の言うことにも一理ある。俺が馬鹿だった」
香里「開き直ってるだけにも聞こえるけど……、だったら、何? 『言いたいこと』って」
祐一「俺が罰ゲームしなきゃならんのはいいとして――」
香里「いいんだ?」
祐一「留保求めたら非難するし、受け入れたら不思議そうにするし!」
香里「あはは」
祐一「笑い事かよ。――とにかく、いいとして。良かないけど、いいとして……、だ。オマエは、いいのかよ?」
香里「何が?」
祐一「罰ゲームのことに決まってるだろ。――さっきの作戦名にせよ、今のこの状態にせよ、香里の参加は決定事項みたいだけど……」
香里「それが? あたしが罰ゲームに参加しちゃ、いけない?」
祐一「理屈に合わんだろうが。俺の場合は、まぁ……、間抜けさに対するペナルティってことでいいとして――」
香里「いいんだ?」
祐一「それはもういいから」
香里「あはは」
祐一「だから笑い事かよ。――とにかく、いいとして、だ。ペナルティを受けなきゃならんこと、香里は何かしたのか?」
香里「してないとでも?」
祐一「真顔で!?」
香里「相沢くんをだまして理不尽にもペナルティを背負わせてワケの分からない罰ゲームへと誘導したあたしに、何の罪もないとでも?」
祐一「そんな冷静な自己分析ができてて、何故レッドカードがふたり分発行されることになっちゃったのかな!? 香里が俺をだまそうとかしなければ、単なる駄弁りで済んでたよねコレ!?」
香里「その理由は……、たぶん」
祐一「『たぶん』……?」
香里「お店ですっごい恥ずかしい思いをするのを、あたしたちが実は心の底では、楽しみにしているから――、じゃないかしら」
祐一「『たち』でくくらないでっ!」

    ○

香里「疑問が解決したなら、そろそろ実行フェイズに――」
祐一「し……、してない! まだ解決してない! お待ちなさいっ」
香里「『タイが曲がっていてよ』?」
祐一「違う違う」
香里「『性格とか思考回路とか趣味嗜好とかが曲がっていてよ』?」
祐一「またしても冷静な自己分析」
香里「自ら口にしたこととはいえ腹立ってきたわ」
祐一「し、しまった……、つい」
香里「こうなったらこの後薬局で買いものする時、超内気な地味子ちゃんを演じて、こんな子をこんな羞恥プレイにつき合わせるなんて、この彼氏ってばどんだけ鬼畜なのか、という感じにしてやる」
祐一「ヒィイすいません! すいませんでした!」
香里「――それで?」
祐一「はいっ!? 何でしょうかっ!?」
香里「それはこっちの台詞。――何? 呼び止めた理由は?」
祐一「――あぁ、そうか……、えぇと……、何つーか……」
香里「なんだ、ただの時間稼ぎ? そんなの、『その場しのぎ』以外の結果には、なりえないわよ」
祐一「――シビアだなぁ……」
香里「あたしの気を逸らしたかったら、何か面白いことしないと。ほらほら」
祐一「趣旨が変わってきてないか……?」
香里「相沢くんにとっても、悪い話ではないと思うけど?」
祐一「――それは……、そうだな」
香里「ちなみにあたし的には、おへそにちゅーとか、膝裏にちゅーとかがマイブームです」
祐一「香里は本当にいろんなこと知ってるなぁ!」
香里「前開きの制服ってこういう時、おなかのとこだけ開けられるから便利よね……」
祐一「早くもボタンに指を――」
香里「――と思ったけど、ダメだわ。カバン持ったままじゃ無理。いったん下ろしていい?」
祐一「……」
香里「あ、『いったんお(置)かして』って言えば良かった。不覚。あたしとしたことが」
祐一「……」
香里「……相沢くん?」
祐一「――そうか……!」

    ○

香里「どうしたの?」
祐一「――香里」
香里「うん」

祐一「俺たちは、薬局に、行けない」

香里「どうして?」
祐一「いや――、行ける、か」
香里「どっちなのよ」
祐一「行けることは行ける。行けるんだけど……、罰ゲームをすることが、できない」
香里「だから――、どうして?」

祐一「それは、俺たちが今、制服姿だからだ」

    ○

祐一「まったくといっていいほどシチュエーションの説明がなかったから気づかなかったけど、俺たち実は今下校中で、制服姿だったんだよ!」
香里「な、何ですってー。登場人物だというのにおへそ出そうとするまでは分からなかった衝撃の真実ー」
祐一「……」
香里「……」
祐一「メタ過ぎたかな」
香里「あたしは棒読みにすることで、メタに頼りつつ、それに無自覚ではないことをも示してみたんだけど」
祐一「俺はあえて大きく騒ぐことで逆説的に以下略」
香里「……」
祐一「……」
香里「うーん……、難しいものね。メタの取り扱い」
祐一「あまり深追いしない方がいいと思う」
香里「そうみたい。――では、基本、なかったことに」
祐一「いいとこ取りだけ、する感じで」
香里「了解」
祐一「……」
香里「……」
祐一「――残念だったな、香里」
香里「何が?」
祐一「『何が』って……、だから、この姿のふたりじゃゴ――、ゴム、買えないだろ?」
香里「そうかしら」
祐一「そうだよ。『不純異性交遊する気満々』って設定なんだぞ? 厳しいって。店員さんに止められるって」
香里「そう……、かなぁ」
祐一「そうだって」
香里「そっ、か……」
祐一「そうそう」
香里「……」
祐一「――あきらめなさい」
香里「……」
祐一「少なくとも、今すぐの実行は得策じゃない」
香里「――ねぇ……、相沢くん?」
祐一「……あきらめ、ついたか?」

香里「買えないのは、確かに残念だけど……、高校生なのに買おうとして店員さんに止められるのって、それはそれで羞恥プレイ的には『イエス』ではないかしら」

祐一「し……、しまった! そうか! この際モノ自体はどうでもいいのか! 重要なのは買おうとする行為そのものか!」
香里「『どうでもいい』とは何事よ! 避妊具は軽視していいものじゃないわ! 謝りなさい! ゴムの神さまに謝りなさい!」
祐一「予想外にブチ切れてるけどさっき『たかがゴム』とか言ってなかった!?」

    ○

香里「とは言ったものの……、やっぱり、買えるものなら買いたいのよね……」
祐一「ま……、まだあきらめてない……」
香里「絶対に、百パー、無理なのかしら。制服のふたりが、ふたりでゴム買うのって。何か方法はないものかしら」
祐一「ひとには『往生際が悪い』とか言っといて……」
香里「あきらめない希望を捨てないくじけない最後まで」
祐一「ここで名曲を持ち出します?」
香里「――宣誓したら、認めてもらえないかな」
祐一「……何だって?」
香里「宣誓。『僕たち/あたしたち真剣におつきあいしています。節度を守ります。やりまくったりしません。コトにおよぶのは気持ちがあふれてどうしようもなくなった時だけにします。その場合にも避妊は必ずします』とか何とか」
祐一「それをレジで叫ぶつもりか」
香里「『叫』びはしないけど。少年少女の主張、って感じで」
祐一「羞恥プレイ ver.2 じゃないか」
香里「口約束じゃダメかしら、やっぱり」
祐一「そういう問題じゃない……」
香里「筆記試験でもやってくれるなら、あたし的にはむしろ望むところなんだけど」
祐一「また変なこと言い出した。――何だよ『試験』って」
香里「内容としては保健体育?」
祐一「ふつうに答えてくるし」
香里「それで九割くらい得点できたら、顔写真入りのカード作ってもらえて、あとはカード見せれば買い放題使い放題――、みたいな?」
祐一「『やりまくったりしません』はどこへ」
香里「ククク……、所詮口約束よ……」
祐一「『宣誓』とか言っといて!」
香里「……」
祐一「何だよ」
香里「すごいことに気がついちゃった」
祐一「きっとロクでもない発見に違いな以下略」

香里「ほら、タバコ買う許可証ってあるじゃない? 『タスポ』」

祐一「すっごいヤな予感」
香里「じゃあ、もしもゴム買う許可証なんてものがあったならその名称は『ちんp――」
祐一「何が何でもそれ言わな気ィ済まんの!? たまには外れてくれ俺の予感ー!」

「あ、おねーちゃん、祐一さん」

祐一「栞はすごいタイミングで現れるなぁ!」
「?」
祐一「――いや、何でもない」
「はぁ……」
香里「相沢くん、そんなふうに言われたらかえって気になるものよ。ズバリと教えてあげた方がいいわ。せめて直近のキーワードだけでも」
祐一「それが一番ダメだろ!」
「??」
祐一「――いいから。気にしないで。本当に。マジで」
「???」
祐一「大したことじゃないから。それどころかロクでもないことだから」
「ははぁ」
香里「最重要案件なんだけど」
祐一「オマエがそう思うんならそうなんだろうオマエん中ではな」
「……あはは。何があったか、だいたい分かりました」
祐一「分かってくれるか……、栞はいい子だなぁ!」
「えへへ」
香里「――ひどいわ。それじゃまるであたしが悪い子みたいじゃない」
祐一「違うのか」
香里「そんなこと言うなら、その内、角と牙と紫・黒系の化粧と尻尾とビキニアーマーとマントと鞭とオーバーニーのブーツを装備して現れてやるから」
祐一「嫌がってるのかと思いきや逆に自分の長所を伸ばす育成方針で悪の女幹部的人気を獲りにきやがった」
「どうしよう……、おねーちゃんならやりかねないし、想像してみても全然違和感ないです……」
香里「そんなこと言うなら、栞。あなたには女幹部の妹的コスチュームを装備させてやるから」
「え……、えええええ!?」
香里「大丈夫。栞は色白だから。黒いセクシィな衣装、きっとよく似合うわ」
「で……、でも……、そんなの恥ずかしい……」
祐一「――栞、それ『おっけー』の照れ方!」
香里「弱気にならないで。あなたならいけるわ」
「そ……、そぉかなぁ……」
祐一「――早くも九割がた乗り気!」
香里「もちろんよ。ぺったんこ体型の小悪魔なんて、ギャップ萌えでマニア人気は有頂天ってものだわ」
「そ……、それはイヤです! マニア受けはイヤです! 受けるならふつうに受けたいっ!」
祐一「――受けるつもりではあるんだ!?」
香里「そうは言うがな栞」
「な……、何……?」
祐一「――何か言うでコレ」

香里「相沢くんって、かなりの性的倒錯者なのよ?」

祐一「う……、うぉおぉぉぉおおお古い話題を蒸し返してきた!」
「せ……、せぇてきとーしゃくさ……」
祐一「言えてない!」
香里「マニアでハードなプレイにも慣れておかないと……、ほら、将来的に――、ね?」
「! ――しょ、しょおらい……」
祐一「今、栞の目、光った!」
「分かりました! ――祐一さん!」
祐一「お、おぅ?」
「私、頑張ります!」
祐一「が……、頑張れ?」
香里「栞ってば本当に一途なんだから。おねーちゃん、かなわないなー」
「えへへ」
祐一「微笑ましい感じでまとまった!?」
香里「――いやぁ……」
祐一「――うん?」
香里「栞たぶらかすの、楽しい」
祐一「鬼かオマエは」

    ○

香里「ところで、歩きながらしゃべらない? いつまでもこんな道ばたで固くそそり立ってても仕方ないし」
祐一「『突っ立ってても』ね!? 何でそういう表現選ぶの!? 非常に香里らしいとは思うけども!」
「――そ……、そそり……」
香里「まぁ栞ってば真っ赤になっちゃって……、意味分かるんだ?」
「……えぅー」
香里「栞のえっち」
「そ……、そんなこと言うおねーちゃん嫌いですっ」
香里「――はい、原作ネタいただきました」
「良かった……、これ言えなかったらどうしようかと」
香里「やっぱり、言っときたいものねー」
「うん。――ありがとう、おねーちゃん」
香里「どういたしまして。――あたしも言っとこう。『言葉通りよ』」
「それは脈絡なさ過ぎっ」
香里「やっぱり?」
「あはは」
香里「ふふっ」
祐一「――何コレ茶番?」
香里「せっかくだから、相沢くんも何か言っといたら?」
祐一「そんなノルマみたいにすること?」
香里「ブルマ?」
祐一「『ノルマ』! 小学生みたいな聞き違い!」
香里「わざとよ、これも。分かってると思うけど」
祐一「言われるまでもないよ!」
香里「というわけで――、栞? 相沢くんはブルマをご所望らしいわ」
祐一「聞き違いの方で進めてきた!」
香里「あなた穿いてる?」
祐一「聞いてる!?」
「は、穿いてません……」
香里「あたしも生パンツだし……、困ったな」
祐一「『生パンツ』て!」
香里「――というか栞、そもそもパンツ穿いてる?」
「……」
香里「相変わらずねぇ……」
「だ、だって、役作りとかあるしっ」
香里「大変ねぇ」
「うぅ……、本当に大変なんだから……、制服、すごい短いし……」
香里「――めくってみてもいい? スカート」
「だ、だめっ!」
香里「前とはいわないから。おしりの方でいいから」
「だめだってばっ!」
香里「――もしかして、めくられるより自分でめくりたい?」
「それじゃヘンタイさんじゃないですかっ!」
香里「ちょうど良いんじゃない?」
「――へ?」
香里「ヘンタイさんどうし、相沢くんとお似合いってものだわ」
「お……、おにあい……」
香里「――あ、検討してる。健気ねー栞は」
「し、してませんっ。検討なんかしてませんっ」
香里「ほらほら、めくってめくって」
「めくりませんっ」
香里「――隙あり」
「ひゃあっ!」
香里「よし!」
「おおおおねーちゃんのばかぁあぁぁぁ!」
香里「ふふっ」
「――ゆ……、ゆーいちさん……? い、今って……、見えちゃいまし……、た?」

祐一「……」

「で、デスヨネー……、ひーん」
香里「……」
「――おねーちゃん?」
香里「なぞなぞ、思いついた」
「……? 『なぞなぞ』?」

香里「立ってるのにかがんでるもの、なーんだ?」

「……」
祐一「黙って俺を見ないで、栞」

    ○

香里「なんか、ただの立ち話が、まさに立ち話になっちゃったわねー」
祐一「誰が上手いこと言えと……」
「……」
祐一「見ないで……、こんな俺を見ないで栞」
「え……、えぇと……」
香里「――ためらうことはないわ、栞」
「――おねーちゃん?」
香里「逆だから。『見ないで』というのは、『見て欲しい』の裏返しだから。ここは見つめるのが正解」
祐一「何のレクチャー?」
「そう……、なの?」
祐一「すぐ信じるし……」
香里「そうなの。――あなただって、そうでしょ?」
「……!」
祐一「そこで『!』て!」
「じーっ」
祐一「自分を省みての結果がその行動!?」
香里「『ということは?』って考えちゃうわよねー」
祐一「煽っといて他人事のように!」

    ○

香里「ねぇ、そろそろ本当に出発しない? 日が暮れちゃう」
祐一「……まったくだ」
「冷えてきたし、早く帰ろう?」
香里「あぁ……、そうだそうだ。――栞。あたしたち薬局に寄るつもりなのよこれから」
祐一「――えっ」
「薬局?」
香里「えぇ。――で、あなた、どうする? 一緒に来る?」
「ついてっても、いいの?」
香里「もちろん」
「わーい。――でも、何買うの? 何か切らしてたっけ?」
香里「秘密」
「えー」
祐一「――ちょ……、た、タンマ!」
「……祐一さん?」
香里「『タンマ』って久々に聞いたなぁ。それこそ昭和のフレーズじゃない?」
祐一「なんか根に持ってた!? ――ってそんなことより、罰ゲームの話、まだ生きてたのかよ!? 流れたと思ってたのに!」
「――『ばつげーむ』……?」
香里「このあたしが、羞恥プレイのチャンスを逃すとでも?」
「――しゅ、『しゅーちぷれい』……?」
祐一「そう言われると……」
香里「でしょう?」
祐一「うぐぅ」
香里「せっかく栞も来てくれて、より美味しいプレイになりそうなんだから……、やらない手はないってものよ」

「え……、えぇっ!?」

香里「どうしたの? 急に大声出して」
「ば、『罰ゲーム』って、私も参加!?」
香里「そうよ?」
「そんなあっさり不思議そうに!? ――何で!? いつの間に!? 私何か悪いことした!?」
香里「してないけど……、でも、栞の参加は合流した瞬間から決めてたことだし?」
「そんなひと目惚れの告白みたいに!?」
香里「――栞? 何事も経験だと思って」
「そんな百花屋でおかしな新メニューに挑戦する時みたいに!? ――え……、えぇとー、私ー、やっぱりひとりで帰ろうかなー、急用思い出しちゃったー」
香里「逃げられるとでも?」
「そ、そう言われると……」
香里「でしょう?」
「……ひーん」
香里「それに相沢くんひとりを、つらい目に遭わせるつもり?」
「……えぅう……」
祐一「――『つらい目』って言っちゃったよコイツ。そんな目に遭わせようとしてる当人が」
香里「泣かない泣かない。――ほら、あなたも相沢くんと腕、組んでいいから」
祐一「――スルーされると思ってましたとも!」
「え。――やったぁ」
祐一「き、機嫌が一瞬で!? ちょろい!」
香里「栞はおっぱいぺたんこで相沢くんの腕くらい太いのは挟めないんだから、せめて一生懸命こすりつけなさいね」
祐一「腕くらいっていうか、腕だよコレは! またそういう表現して!」
「そ、そんなふうに言う人、嫌いですー」
香里「じゃあ、行きましょうか☆」

    ○

祐一「ところで、さ……」
香里「何?」
「祐一さん?」
祐一「『より美味しいプレイ』とか、言ったよな……?」
香里「言ったわ」
祐一「それって――」
香里「栞も加わったこの状態で、例の罰ゲームを実行する、ってことよ。もちろん」
祐一「――それが意味するところを……」
香里「認識し覚悟した上で、よ。もちろん」
祐一「――く……っ」
「――ね、ねぇ、おねーちゃん……、何なの? 『罰ゲーム』って何なの? いったい何をしようとしてるの?」
香里「お店に着いてからのお楽しみ」
「そんなぁ……」
香里「じゃあ、作戦名だけ教えてあげる」
「『さくせんめい』……?」

香里「『オペレーション:俺、今から姉妹丼いただいちゃいます』」

「し、『しまいどんぶり』っ!?」
祐一「うわぁ悪化しとるっ!」

                             (了)