せーれんせん

幽々子「『星蓮船』……」
幽々子「『星蓮船』、『星蓮船』……」
妖夢「?」
妖夢「どうかなさいましたか、幽々子さま」
幽々子「……あぁ、妖夢……」
幽々子「……」

幽々子「『星蓮船』」

妖夢「――はぁ」
幽々子「いえ、ね」
幽々子「何だか、どこかで聞いたような響きだなぁ、と思って」
妖夢「ははぁ」
幽々子「どこで聞いたんだったか……」
幽々子「もうちょっとで思い出せそうで、思い出せなくて」
妖夢「――あぁ、なるほど」
妖夢「ありますね、そういうこと」
幽々子「うーん……」
幽々子「……」
幽々子「……」
幽々子「……」

妖夢「って幽々子さま」
妖夢「どうして私をじっと見ているんです?」

幽々子「妖夢に何か、強いショックを与えてもらったら、思い出せるかもしれない、と思って」
幽々子「――こう、衝撃でコロッ、と。ポロリッ、と」
幽々子「記憶の底から出てきそうな、そんなあたらしい予感」
妖夢「え」
妖夢「何ですかそれ。『強いショック』って……」

幽々子「例えば、頭を叩くとか。ほっぺを張るとか」

妖夢「えええええ」
妖夢「――そ、それ……、私が、ですか?」
妖夢「私が、幽々子さまを?」
幽々子「それは、そうでしょう」
幽々子「思い出せないのは、私なんだもの」
幽々子「なら、私がショックを受けなきゃ。私が叩かれなきゃ」
妖夢「た、『叩かれなきゃ』って……、そんな」
妖夢「わ、私が」
妖夢「私が幽々子さまを叩くなんて、そんな」
妖夢「イヤですよそんなこと。できませんよそんなこと」

幽々子「その『幽々子さま』が頼んだことでも?」

妖夢「う」
妖夢「――で、できませんっ」
妖夢「この点は譲れませんっ」
幽々子「フムン……」

幽々子「では、精神的なことで何か、ショックを与えてちょうだい」

妖夢「――は?」
妖夢「『精神的』って……」
幽々子「だって、物理的・肉体的なショックを与えることはできないのでしょう?」
幽々子「それなら、気持ち的なことでやってもらうしかないじゃない」
妖夢「――はぁ」
妖夢「……」
妖夢「と、言われましても……」
妖夢「『気持ち的なこと』って、いったいどんな……」

幽々子「例えば……」
幽々子「――そうね」
幽々子「私が黙って、ひとりでどこかへ出かけたとしましょう」

妖夢「――あの」
妖夢「それ、その時点で私がショックなんですが」
幽々子「例え話よ。いいから聞きなさい」
妖夢「はぁ」
幽々子「妖夢は、捜しに出ます――、出てくれますよね?」
妖夢「そりゃ出ますよ。もちろん」
幽々子「ありがとう」
妖夢「……っ」

幽々子「――さて」
幽々子「内緒で勝手に出かけた私、の話ね」
幽々子「とうとう、妖夢に発見されるわけだけど……」

幽々子「迎えに来た妖夢が」
幽々子「何故か全裸」

妖夢「……」
妖夢「ええええええええええええ」

幽々子「――あ」
幽々子「靴下は履いているのよ? もちろん」
幽々子「それ以外は全裸、という意味ね」

妖夢「ええええええええええええ」
妖夢「この際どうでもいいような注釈をつけてきた!」

幽々子「いやいや、妖夢」
幽々子「重要よ靴下は。とっても」

妖夢「さらには否定意見を認めず主張を重ねて強調してきた!」
妖夢「――その点、そんなに譲れないところですか!?」
幽々子「うん」
妖夢「ええええええええええええ」

幽々子「――さておき」
幽々子「これはすごいショックだと思う」
妖夢「聞かされた私が今まずショックですよ!」
妖夢「どうして全裸なんですか私!」
妖夢「――というかそれ以外の点でも何だかもう本当にいろいろとショックですけども!」
幽々子「いやいや、妖夢」
幽々子「それはこちらの台詞というものよ。あなたどうして何も着てないの?」
妖夢「いやいやいや」
妖夢「幽々子さまが言い出したことですってば」
妖夢「イヤですよそんなの」
妖夢「できませんよそんなの。やりませんよそんなの」

幽々子「――もうっ」
幽々子「あれもできない、これもできない……」
幽々子「否定ばっかり!」

妖夢「ええええええええええええ」
妖夢「突然業を煮やされた!」

幽々子「そんなワガママ三昧の子、おねーさんは許しません」
幽々子「――妖夢さんにはちょっと、教育が必要みたいですね」

妖夢「何だかよく分からない人格が出てきた!」
妖夢「――って」
妖夢「『教育』……?」
幽々子「教育」
妖夢「とは、いったい……」

幽々子「――うふふ」
妖夢「何故かここで舌なめずりをしてみせた!」

妖夢「――ま、待ってっ。待ってくださいっ」
妖夢「お待ちください、その……っ」
妖夢「え、えぇと、えぇとえぇとっ」
妖夢「……」
妖夢「そ、そうだっ。そうだそうだっ」

妖夢「――そんなことより幽々子さま、ほらっ」
妖夢「そんなことよりほらっ、ほらあれをっ」
妖夢「『星蓮船』っ、『星蓮船』のこと、ほらっ」
妖夢「お忘れですよ幽々子さまっ。何か気になることがあるとか何とかおっしゃってたじゃありませんか幽々子さまっ」
妖夢「と、とりあえずっ」
妖夢「とりあえずそちらを片づけてしまいましょうよ幽々子さまっ」

幽々子「そんなの、もう思い出しました」
幽々子「『星蓮船』」
幽々子「せいれんせん」
幽々子「せーれーせん」

幽々子「――『精霊戦士』」
妖夢「せーれぇせんし……?」

幽々子「そう」
幽々子「私の記憶の底から出てこようとしていたのは、『精霊戦士スプリガン』だったのでした」
幽々子「――似た発音が、共鳴を起こしていたのね」

妖夢「はぁ」

幽々子「――と、いうわけで」
幽々子「こちらの問題は片づいています」
幽々子「次は、妖夢の問題を片づけましょう」

妖夢「う」
妖夢「うぇえぇぇぇえええ」
妖夢「――そんな、幽々子さまっ」
妖夢「ま、待ってっ。待ってください」
妖夢「お待ちください、その……っ」
妖夢「え、えぇと、えぇとえぇとっ」
妖夢「……」
妖夢「そ、そうだっ。そうだそうだっ」

妖夢「――幽々子さま、思い出されたんですよねっ!? 『星蓮船』のことっ!」
幽々子「えぇ、思い出したわ」
妖夢「では、衝撃を受けてコロリッと出せないか、とか考える必要、なくなったことになりますよねっ!?」
幽々子「なるわね」
妖夢「私が何かする必要も、なくなっていますよねっ!?」
幽々子「そうね」

妖夢「そ……、それならっ」
妖夢「私が何かするとかしないとかいう話も消えて」
妖夢「つまり、できるとかできないとかいう話も消えてっ」
妖夢「ということはっ」
妖夢「教育がどうこうとかいう話も消えるのではっ!?」

幽々子「そうはいきません」
妖夢「えええええええええ」
妖夢「どうしてっ!?」

幽々子「どうしても」

妖夢「わ」
妖夢「『ワガママ三昧』だ!」