DOWN TO HEAVy greEN 15

■ メディック・くりすけ(続き)

 な、
 なんと、
 なんという、

 なんという、存在感――。

 迫ってくるような……、
 いいえ、
 それは現実に、迫ってきてるのですが、
 つまり、それ、
 それに、
 ――それら、に、
 圧倒されて、
 圧倒的なそれらに、

 私はつい、一歩下がってしまいました。

「こらこら、くりすけ」

 苦笑する声で、私を注意するのは、
 ――騎士さま。

「は、はい……」
「くりすけまで動いて、どうする」

 そう。
 私に、プレッシャをかけてるのは、
 ――騎士さま。

 私は騎士さまと向かい合ってる。

「差が縮まらないじゃない。動かないで」
「はぁ……」

 騎士さまが、歩き出す。
 私との、距離を詰める。

 私は、立ってる。
 頑張って、立ってる。
 騎士さまとの距離が、詰まる。

 そして、
 それらは、迫ってくる。
 目の前に。

 騎士さまの、
 鎧をつけていない、騎士さまの、

 服は着てるけど、
 鎧は服の上につけるから、この場合、着たままで正解なんだけど、
 そんな服を、
 張りつめさせてる――、

 みっしり。
 たっぷり。
 どーん。
 どかーん。

 前後に、
 左右に、
 上下にも、

 ぱんっぱんっ。
 ぱつんぱつん。

 全方向に、
 3次元的に、

 ――張りつめさせてる、

 む……、
 胸の、

 ――圧倒的な、
 ――存在感、
 ――現実、

 ふくらみ、ふたつ、
 が、
 ふるん、ふるん、
 と、
 迫ってきてて、

 私は、
 なんと、

 防具を新調するにあたり、
 仕立て直しを依頼するにあたり、

 みんなのスリーサイズを、具体的に測りとらなければならない立場になって、
 まずは、騎士さまから、ってことで、

 騎士さまの……、
 その……、

 ――バストから、

 ってことで……、

 それらは、いったいぜんたい、どれほどのものなのか。

 そこで、
 そのため、

 あわわわわわわわわわわわわわわわわ、

 になってる。
 というわけですあわわわわ。

 ――そんな、あわわわわわわ、な私のすぐ前で、騎士さまは立ち止まり、
「じゃ、よろしく」
 ひじを、左右に張るようにした。

 計測待ちのポーズ。

 ここまで来たら……、
 もはや、私になすすべはない。

「は……、はい……」

 巻き尺を、
 この手にある、巻き尺を、
 騎士さまの身体に、巻きつけること、
 それ以外には。

*

 ど、
 どうしよう。
 難しいよ……。

 巻き尺の先っぽをつまんで、
 騎士さまの、わきの下をくぐらせて、
 そこまでは、すぐだったんだけど……。

 その先へ、進めない。

 先っぽをつまんだ手を、もっと、騎士さまの背中の方へ。
 もう一方の手も、もっと、騎士さまの背中の方へ。
 そうしないと、いけないのに。

 そうして、
 騎士さまの背中で、
 騎士さまの向こう側で、
 巻き尺の先っぽの、
 受け渡しをしないと、いけないのに。

 できない。
 ――届かない。

「そりゃ、届かないよ」
 頭の上から、騎士さまの声。

「くりすけ、小さいんだから。そこからじゃ届かないって」

 やれやれ、って響きで――、

「ほら、もっと近づく。
 腰だって、引けちゃってるし……、はい、しゃんとする」

 とんでもないことを言う。

 でも。
 そんな。
 これ以上、おそばに寄ったら――。

 いいのかな。
 すごいことになっちゃいそうだけど。
 大丈夫なのかな。

 私は騎士さまを見上げる。
 すぐ近くに、そのお顔。

 騎士さまは、怖い顔だった。

 なのに、
 何だか、嬉しくなっちゃう私。

 えへへ。

「こらこら、笑ってる場合か」

 だって、
 怖くないんですもの。

 だってだって、
 作ってますよね、それ。
 作ってる作ってる。

 うふふ。

「――くりすけ」

 はぁい。

「いいから、早く」

 騎士さま、少し真顔。
 今度のは、本当に真顔。

 だから、私も真顔。

 むんっ!
 よぉしっ!

 気合いを入れて……、
 覚悟を決めて……、

 ……。

 ――けど。
 それでも。

「できない?」

 できない、っていうか……。
 その……。
 何ていうか……。

「どうしてもできない、っていうなら……」

 騎士さまはひじを伸ばした。

 騎士さまの左右の手が、
 私の左右の視界の端を、通り過ぎ、
 耳のあたりに、
 触れた。

 ――え……。

 騎士さま、
 私の頭を、支えてる……?

「こうだ」
「わぁ」

 私は頭から、
 顔から、
 ――鼻から、
 騎士さまの方へ引き寄

 ぱふっ。

 ……。

 ……。

 ……。

 あったかいなぁ、

 ……。

 やわらかいなぁ、

 ……。

 うにゅっ、としてて、
 ばいーん、としてて、
 ちゃんとあるのに、

 ……。

 ふにゅっ、としてて、
 たゆーん、としてて、
 ないみたいでもあって、

 ……。

 へんなの、

 ……。

 でも、
 へんだけど、
 ほっ、とする、

 ……。

 でも、
 ほっ、とするけど、
 どこか、
 どきどきも、する、

 ……。

 これは、なんだろう、
 わたしは、どうなってるんだろう、

 ……。

 いいにおいがするなぁ、

 ……。

 なにも、
 なにもみえないや。

 ……。

 めはあいてるのになぁ。

 ……。

 ――あぁ……、
 めいっぱいに、あるものに、
 ふさがれてるんだ、

 ……。

 これは、なんだろう、
 わたしは、どうなってるんだろう、

 ……。

 ――あぁ……、
 そっか、
 わかった、
 なるほど、
 
 ……。

 これって、
 わたしって、

 ……。

 いま……、

 ……。

 ……。

 ……。

 ――きゅう。

                          (続く)