DOWN TO HEAVy greEN 06

■ バード・ニーチェ

 ヒドいよね。
 僕はただ、自己紹介しただけなのに。
 それも、「自己紹介してくれ」って言われて、したことだっていうのに。

 それなのに……。
 名前と職業を言った途端に、

 びゅうっ、って何か飛んできて、
 それはロープで、
 ロープは、ぎゅるぎゅるぎゅる、って僕の身体の周りを踊り回って、
 ぎゅうっ、って締まった。

 僕、縛られた。

 しかも。
 縛られて終わりじゃなくて、
 ぎゅわーん、って……、
 僕、浮いたよ。
 足がね。床から離れた。

 縛られて、ぶら下げられた、ってコト。
 天井から――。

 何コレ!
 ヒドいよ!

「ちょっとちょっと」
 パラディンさんが――、

 えっと。
 これじゃあ、ワケが判んないかな。今さらだけど。

 順番に言うとね。

 まず……。
 僕、ギルドで求人票を見たのね。
 その求人票には、いろいろ変なコトが書いてあったんだけど、「バードは要らない」とは書いてなかったから、僕は行った。

 ――行ったというか、つまり、来た、ってことだね。ここへ。面接会場。宿屋。客室のひとつ。

 部屋の前まで来て、ちょっと緊張してきて、どきどきになってみたり(自分でも、珍しいことだなぁ、って思った)しながらノックしたら、「はーい」って返事があって、「どうぞー」って返事もあって、僕はドアを開けた。

 そしたら、部屋の中には、金髪のパラディンさんと、栗毛のメディックさんと、髪の毛ぐるぐる巻いてるダークハンターのひとがいた。
 3人とも、女のひと。

「こんにちはー」とか「はじめましてー」とか「求人票見てきたんですけどー」とか、とりあえずのごあいさつを、おたがい、ひと通り、したのね。

 で、それが済んでからだけど、3人の内の、見た感じ、パラディンさんなひとに言われたのね。
「自己紹介、してくださいな」って。

 このひと、にこにこしててね。僕、ほっとしたよ。
 うん。ほっとさせる笑顔だったんだ、そのひと。優しそうでさ。

 ほら、パラディンのひとって……、
 なんて言うのかな? 騎士道? そんな感じで、堅苦しいひとが多そうじゃない?
 でも、このひとは笑ってて。
 だから、安心感も倍増ってやつ。

 で、僕は安心した。
 安心して、自己紹介して――、

 したのに、

 ぎゅるぎゅる、ぎゅうー、ぎゅわーん、
 だった、というわけ。

 ヒドいよね。

 ただ、ヒドいコトしたのは、パラディンさんじゃなかったから、裏切られたー、だまされたー、とは、あんまり思わなかった。

 ヒドいことしたのは、メディックさん――でも、もちろん、なくて、ダークハンターのひと。

 まぁ、ダークハンターっていえば、縛って痛めつけるのがオシゴト、みたいなところもあるし、油断してた僕が悪い、って部分もあるのかもしれない。

 けど……。
 それにしたって、
 自己紹介しただけで、これはないと思うんだ。

 そんなにマズかったかなぁ……、僕の自己紹介。

「僕はニーチェ、バードなんだよ」
 って言っただけ、なんだけど。

*

「私ね」
 ダークハンターのひとが、ものすごく悪い目つき(ひっくり返したカマボコみたいな形だった)で僕をにらみつけながら、言った。「そういう『いかにも』なキャラ、好きじゃないのよ」

 そんなコト言われても。
 キャラとか、そういうのじゃないもん……。

「その、『もん』とかいう語尾も気に入らない……っ」

 うわ。
 ごめんなさいごめんなさい。揺らさないで揺らさないで。正直に言います。自分でも、これはちょっと、狙ってるキャラ造りっぽいかも、とは思ってるんです。けど自分としては、気がついたらこんな感じになってた、ってだけなんです。作ろうとして作ったわけじゃないんです。だから揺らさないでー。

 ね、ねぇ、助けてよパラディンさん。にこにこしてないで。
 助けてよメディックさん。おろおろしてないで……、

 あ。
 うわ。
 ――ちょ……っ。
 そろそろ本当に勘弁してください。揺すぶられてるだけならともかくも……。

 え?
「何」って……?
 えっと。ロープが、ね。
 要するにあの。
 食い込んで、来ちゃって。
 あはは。

 え?
「どこに」って……?
 それはつまり、その。なんていうか。ほら……。
 ね?
 判るよね?

 え?
「判らない」って……?
 嘘!

 え?
「言ってくれなきゃ判らない」……?

 い――、
 言えないよ! 言えるわけないじゃん!