DOWN TO HEAVy greEN 01

■ パラディン・すにこ

 どうして、迷宮に潜ろうと思ったのか。
 冒険者になろうと思ったのか。
 それを説明するのは、難しい――。

 いや。
 説明するだけなら、簡単なのだけれど。
 ちゃんと伝わるかどうかが、あやしい。変にとらえられる可能性の方が高い。誤解とか曲解とかいうやつをされそうで、そうなれば結局、説明できなかったのと、それは同じこと。

 でも。
 言うだけは言ってみようか。

 どうして、迷宮に潜ろうと思ったのか。
 冒険者になろうと思ったのか。

 それは。

 好奇心から。
 面白半分に。
 退屈しのぎになると思って。

 ――ほら。
 ふざけるな、って感じ?

 だから、それが誤解だ。
 私は真面目だ。
 真面目に、面白そうなことを求めているだけ。
 ふざけているつもりは、断じて、ない。

 だって。
 即死してしまうじゃないか。
 そんな態度であったなら。
 本気で、丁寧に、生き抜こうとしていなかったなら。

 世界樹の迷宮の内部というところは、そういう場所のはず。

 そんなことになってしまったら、つまらないし。
 だから私は、あくまで真面目だ。

 それに――。
「面白半分」といったが、では残りの半分は何かといえば、それは、生活のため、であったりするわけで。
 こちらは、それこそ切実で。
 気を抜いている余裕なんか、ない。

 ご理解いただけただろうか。

*

 さて。
 真剣な私なればこそ、事前に計算と検討とを重ねてもいる。

 迷宮に潜って得られるものは、リターンばかりではないのだから。時には、リスクを負わねばならないことも――。

 逆か。
 普段はリスクばかり。時にリターンがあることも、ある。
 そのくらいかな。

 どっちにしても。
 背負わされるリスク。支えきれるだろうか。それはただただ覆いかぶさってくるばかりのもの、だろうか。ひたすら耐えるしかないもの、だろうか。軽減は不可能だろうか。もしも可能だというなら、どんな手段によれば? 装備品、道具、スキル。何が必要だ?

 そして、それを超えた先にあるリターン。
 どれほどのものを、得られるのだろう。
 そもそも存在するのだろうか。危険を冒してまで得るべきものは。

 ――そもそも、冒険者とは、それを確かめるために生きているもののこと、それこそを、そう呼ぶのかもしれない。

 深いなぁ。
 と、感心してる場合じゃなくて……。

 何故って。
 これは要するに、冒険者になっていいものかどうか、今、検討しなければならないのに、その答を得られるのは、未来。冒険者になってしまった後でなければ無理だ、ということになる。
 構造的欠陥、というやつか。

 困ったなぁ。

 ともあれ。
 そんなような、計算をした。

 そして。
 こんな、安全なところで進めたシミュレーションなんて、現実の前では、きっと、モロくも崩れ去るものなのだろうな、と。
 それさえも、計算の内で。

 そんな、揚げ足取りのようなことまで考えて、その上で、それでもなりたい、と私は、冒険者になる方を選択した。
 覚悟を、決めて。

 決めた――。
 つもりだった。

 しかし。
 所詮は、「つもり」のことだったらしい。

 そう……。
 いくら損益の計算をしたといって、それは、冒険者の現実を知らない者がしたことなのだ。そもそも与える数字からして間違っていたりするのだ。
 それでは、正しい解答が得られるはずがない。
 そんな誤答に基づいた覚悟なんて、それこそ、モロくも崩れ去る以外にない。

 甘かった。
 私が甘かった。
 現実とは――冒険者の現実とは、もっと、もっともっと、本当に、厳しいものだった。

 私は、とんでもなく予想外で、斜め上の展開に、いきなり襲われたのである。
 現実の窮地の中では、素人考えからの覚悟なんて、まったく役に立たない――、初っ端から、そう思い知らされたのである。

「あんたのギルド名を決めてくれ。
 もしかしたら将来、有名になるかもしれないから、せいぜい、格好いい名前にしとけよ?」

 そんなの!
 計算の外だったよ!
 思いつかないよ!
 決まらないよ!
 もう夕方だぞ!
 冒険者登録に来たの、朝だったのに!

 何だ、この窮地!