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博麗神社例大祭2 2005/05/04 い -09

◆ 告知 - 紅魔館・十六夜咲夜からの手紙 - ◆

【夜/彼岸・マヨヒガ・八雲一家の家・居間】
藍、眼鏡をかけて、部屋の中央のちゃぶ台に向かっている。左手で頬杖。右手には鉛筆。卓上には数字のたくさん書き込まれたノート。領収証の類。

(うー……む)
(昼間遊んでしまうと、夜、大変だなぁ)
(霧雨魔理沙のところにみんなで集まると、そりゃ、退屈はしないが)
(家の仕事が溜まってしまう)
(このところ、遊びっぱなしだったから、溜まりっぱなしだ)

      ◆   ◇   ◆

(――に、しても……)
(今月も厳しい……)

(まぁ、冬も終わってこれから暖かくなるから、光熱費も食費も楽にはなるとはいえ)
(余裕ができたら、橙に服とか靴とか買ってやりたいし)
(――向こうの連中……お嬢さまとかそのメイドとか、博麗の巫女とか、何だかんだいって、いいもの着てるからなぁ)
《魔理沙を思い浮かべて》(普通のも居るには居るが)
(それだって別に、安物を着てるわけじゃないものな……)

《ため息》

(よし!)
(何とか資金をひねり出して、橙にヨソイキを買ってやろう。うん――)


【藍の妄想】
映像には紗、音声にはエコーがかかっている。

《びっくり》「わ」
「私に、新しいお洋服……?」

「で、でも」
《もじもじと遠慮》「もったいないです、私なんかに」

《慌てて否定》「い、いえ、そんな! そういう意味では!」
「……はい」
「すごく、うれしいです……」
《照れ照れと、衣紋掛けのまま、自分の前に合わせて》「えへへ……新しいお洋服だ……」

《満面から「藍さま大好き」光線》「ありがとうございます、藍さまっ」


【現実】
《にへら》
「……」
《頭を振る》「――い、いやいやいや」
「そういう、感謝されたいとか、ましてや見返りを求めてるとか、そんなヨコシマな気持ちではないぞ」
「ない」
「ないんだ」

そこへ、当の橙、本人がぱたぱたとやってくる。

「藍さまらんさまっ」

《びっくり。正座のまま跳び上がる》「わぁ」
《びっくりされるとは思わなかったので、びっくり》「わぁ」

《どきどきどきどき》
《尻尾が太い。どきどきどきどき》

《動悸を強いて鎮めつつ、振り向く》「――ちぇ、橙か……びっくりした……」
《胸に手を当てて》「私もびっくりしました……」
「すまない」
《謝られて焦る》「い、いえいえいえ、そんな」
「――どうかしたんですか、藍さま」
「え」
「い、いや……べ、別に」
「やましいことなど」《明らかに焦っている》「考えていないぞ、私は。何にも。あぁ何にも」
《重々しく》「うん」
「……はぁ」《よく判らない》
「そ――」《話題を逸らす》「そういう橙こそ、どうしたんだ」
《用があってきたのを思い出した》「……あ!」
「そうそうそうでした藍さま!」
「うんうん」
「お手紙です」
「手紙?」

(――あれ?)
(帰ってきた時に郵便受け、覗かなかったかな?)

《驚いた時にズリ落ちた眼鏡を直し、手紙を受け取ろうと、手を差し出す》「あぁ、ありがとうな……」
「……」
「……」《待っている》

《動かない。あの手に対してどう反応したらいいのだろう、と思っている。あごを載せたらいいのかな、と思っている》
《更に待つ》

「……」
「……」

「?」《首を傾げる》
「?」《それを見て、首を傾げる》

「……橙?」
「はい?」
「手紙、持ってきてくれたんじゃないのか?」
「あ!」《やっと、藍が手を出していた理由が判った》
「橙?」
《慌てて》「ちがいます、そうじゃないです」

《一生懸命説明》「あの、今、郵便のひとが来て」
「お手紙が、封筒で、速達だって言ってるんです」


【玄関から奥の紫の部屋へ続く廊下】
藍、速達を受け取った。紫宛だったので届けに行くところ。

「――すみませんでした」《しょんぼり》
「いいよいいよ」
「速達が来るなんて思わなかっただけだ」
《手にした封筒を、表裏表と眺める》「紅魔館から、紫さま宛か。何だろうな。ついさっきまで、霧雨魔理沙のところで一緒だったのに」
「何かあった……」
「……にしては、華やかな封筒だな」


【紫の部屋の前】
襖は閉じている。

《襖越しに呼びかける》「紫さまぁ」
「速達が届きましたよぉ。紅魔館からですぅ」
「……」

返事はない。

《小声で橙に》「――もう、お休みかな?」
「そうかも」

その小さなやりとりの途端。

《部屋の中から襖越しに》『まだ起きています』

《びっくり》「わぁ」
《びっくり》「わぁ」


【紫の部屋】
「失礼します」
「しつれいします」

藍と橙、襖をソロソロと開けて入ってくる。紫の姿を見て硬直する。
紫、藍たちに背を向けて座っている。先刻の藍のように、低い文机に向かい、ノートのようなものを広げ、ペンを持って難しい顔をしている。

《帳面から顔も挙げず》「――速達だったわね。ありがとう」

《硬直が解けない》
《硬直が解けない》

「……?」《反応がないので、やっと藍たちを振り返る。ふたりが固まっているのに気づく》
「……藍?」
「藍!」

《硬直状態のまま跳び上がる。着地の衝撃で我に返る》「あ! え、はい!」
「し、失礼しました! はい!」
《深呼吸》
「……そ、速達です」
「どこからだっけ?」
《おずおず》「こ、紅魔館……」
「レミリアさんと変なメイド長さんのところね……何かしらね」
「さ、さぁ……」

《ため息》
「どうしたの?」

《「紫さまが真面目に机に向かっているのを見て驚いたんです」とは言えない》「な、なんでもありません」

《しかし、見透かしている》「失礼ね。私だって、真面目に何かに取り組むことくらいあります」

「あうっ」(バレてる!)

「――まぁ、いいけど」
「でも、そうね……ちょうどいいところに来たわ、藍」
「手伝ってくれる?」
《名誉挽回のチャンスだ、とばかりに》「何なりとお申し付けください!」

「なら……」

「『ウ』から始まるヒーローの名前、って何がある?」

「……」
「は?」

《繰り返す》「『ウ』から始まるヒーローの名前」
「はぁ」
「はぁ、じゃなくて、ウ」
「ウは宇宙船のウなのよ」
「ははぁ……」

《くるりと机に向き直り、帳面をつかんで、再度反転。藍にそれを突きつける》「ここの、ヨコのカギなんだけど」

《帳面を見て》「……」

《目を丸くして》「わ」
「クロスワードだ」
《大きく肯く》「クロスワードです」

帳面はクロスワードパズルを集めた本。

「どうしても埋まらなくて」
「『ウ』から始まるヒーローなんて、『ウルトラマン』に決っていると思うのだけど」
「升目はもうちょっと多いのよね……」
「だからといって、『ウルトラマンコスモス』とかだと長いし……」
「第一、最後の文字は『音を伸ばす棒』なのよ」

「藍、貴女。当てはまりそうな名前、何か知っていて?」

《つい、パズルに飛びついてしまう》(ウ、ウ……何だろう……)
(最後は、伸ばす棒かぁ……)

「……」《ぷるぷる震えだす》

「あ……」《不穏な気配を感じた。藍から離れるように後退り》「らんさま……」

(――ちょっと、からかいすぎたかしら……)
「と、思ったけど……」
「やっぱり、もうちょっと自分で考えてみます」《よっこらしょ、と立ち上がる》
「ありがとうね、藍」

《橙の陰に隠れるように回り込む。橙を盾にしながら》「――ほらほら、橙。藍のお仕事の邪魔をしてはダメよ?」

《紫に押されてつんのめる》「わ」
「お、おじゃまなんかし、てませんからっ」
「なら、いいけど」
「――それじゃ、私はこれで……ちょっと、お茶でも飲んで気分転換して来ます」
「またね」《部屋から出て行こうとする》

《とても静かな声》「お待ちください紫さま」

「きゃっ」《びくっ》
《振り返る》「……な、なぁに?、藍」

《速達の封筒を紫に示してみせる》「ですから、これが届いております」

「――あ、あぁ」
「そうね」
「そうだったそうだった」
「ありがとう、藍」《受け皿の形に、両手を出す》
「届いておりますから」《その上に載せるように、更に差し出す》
「えぇ」
《にっこり》「綺麗な封筒ね。何かいいものが入っていそうね」

《しかし》「おりますから」《と、更に差し出す。封筒は紫の手の上を通り過ぎる》

「えぇ、えぇ……」
「おりますから」《更に差し出す。封筒は紫の胸元に突きつけられる》

「おりますから」《更に。封筒は紫の口元に突きつけられる》

《のけぞる。顔を少し背ける》「わ、判った、判りました!」
「私が悪かったから!」

「おーりーまーすーかーらー」《更に。封筒は紫の鼻先に突きつけられる》
「おぉぉりぃぃぃまぁぁすぅぅかぁぁらぁぁあああ」《更に更に更に……》

「わ、わ、悪かったってばちょっと! 藍!」
《見ようによってはどことなく嬉しそうな苦笑》「や、ヤだ!」
「鼻に! ハナに封筒の角、入ってる! 入ってるから!」

(……楽しそう?)

      ◆   ◇   ◆

 ――こんな感じの台詞ネタ本、出ます。たぶん。きっと。

◆ 配置 ◆

[い -09]無限夜桜同人誌出版部轟天社

◆ だしもの ◆

* 新刊「東方対話片 05 The Fifth Twin Scarlet Bee 」 - A5 版東方シリーズ二次創作対話形式・文章本

* 再版「東方対話片 04 The Fourth Loving Beat 」
* 再版「東方対話片 03 The Progressed Third 」
* 再版「東方対話片 02r The Second Detonation 」
* 再版「東方対話片 01r The First Resort 」